海外中古不動産節税スキームにメス? 首都圏賃貸マンションはさらなる上昇可能性が出てきた
不動産コラム

海外中古不動産節税スキームにメス? 首都圏賃貸マンションはさらなる上昇可能性が出てきた

2019年の半ばくらいから、東京においては中古マンション価格に一服感が見え始めました。台風等の災害でネガティブな印象の持たれたエリアでは、値下がり基調に入っているようです。

また、都市部の投資マンションでは、5億、10億を超えるような大きな賃貸マンション(1棟)は、REITや外国人投資家、機関投資家などが、大きなお金を安定的に運用できるということで、これまでもある程度価格上昇が続いてきましたが、まだ強気価格が続いています。

高収入サラリーマン、士業、経営者の不動産投資対象物件の変化

一方、1~3億程度の比較的安めの賃貸マンション(1棟)は、主に高収入サラリーマンや高収入の士業の方、企業経営者・幹部の方々などが購入していましたが、割高感が出てきたことや、銀行の融資審査が厳しくなったことなどから、ここに来てやや苦戦しており、価格は少し弱含みです。

こうした方々が、近年、節税幅が大きく、比較的割高感がないと見える(実際は割高な物件もありますが)海外中古不動産投資を行う例が多く見られました。

節税スキームは後述しますが、所得が高く源泉徴収で納税している、大企業幹部サラリーマンや士業の方々などにとっては、加速度償却を上手く活用すれば、大きな節税メリットを得ることができます。

しかし、この制度が2020年度から使えなくなりそうです。

毎年、12月上旬に発表される次年度からの税制改正ですが、次の改正で海外中古不動産を使った節税スキームにメスが入りそうです。

この原稿は、2019年11月24日に執筆していますので、あと2週間もすれば公開されると思います。

以前から海外不動産投資をする方はいらっしゃいましたが、近年の日本の不動産価格上昇に伴い、「今の日本国内不動産は高いから、いまは海外不動産投資を行いたい」と考える方が増えてきました。

しかし、この改正が行われると海外中古不動産投資に一定のブレーキがかかり、その流れで、前節でのべた海外中古不動産に投資していた方が、国内の賃貸マンション投資に戻ってくれば、再び活況になるかもしれません。

海外不動産(住宅系)投資を行う方の狙い

海外不動産投資(住宅系)において投資家の狙いは、概ね2つのパターンがあります。

1つは、アジア後進国などのプレビルドのマンション(まだ建設されていない、あるいは建設途中)(区分所有権)を購入して、物件の値上がり期待(キャピタルゲイン)と将来のインカムゲインを狙うタイプ。

もう一つが、例えば北米の中古木造住宅(一戸建て)などを購入して、大きな減価償却により、損を出すことで、所得税の節税を狙うタイプです。もちろん、こちらのタイプもキャピタルゲインやインカムゲインも合わせて狙います。

2つのタイプとも、融資をどうするかが問題になるのですが、それは今の日本国内不動産でも同様です。

しかし、前者では、「本当にマンションはきちんと建設されるのか」、「入居者はきちんと確保できるのか」、「管理体制は大丈夫か」、「出口=売却のルートはあるのか」といったビジネス慣習の違いや、不動産関連市場の未整備の懸念を抱くことが多いようですが、購入金額が比較的低いことや、「大きなリターンを狙うので、多少のリスクは仕方ない」と思って投資する方が多いようです。

一方、後者に関しては、主にアメリカ等の市場が整備されている国に在する不動産ですので、こうした懸念はなく、高額な物件でも大きな節税効果があることや、「大きな値下がり可能性が少ない、逆に値上がり期待もかなりある」という安心感から、富裕層を中心に投資が広がっていました。

この節税スキームにメスが入るようです。

アメリカ中古不動産の節税スキームをざっくり解説

所得税を算出するときに、給与所得等とともに不動産、山林、事業、譲渡の4つに関しては損益通算(赤字や黒字を合算)ができます。不動産所得で赤字ならば、所得合計が低くなり、その分節税できるという事です。

日本における賃貸需要のあるようなエリアでの住宅の評価は、土地と建物で半々とか、都市部など地価の高いところでは8割が土地などということもあります。

アメリカでは、建物価値が高く65%~80%というのが一般的です。ニューヨーク州郊外の高級住宅地でも建物比率が70%~80%超というのが普通です。

建物には減価償却があり、一定年数が経った物件には加速度償却が認められています。加速度償却とは、通常より短期間で資産の減価償却を行う方法です。中古物件の耐用年数を算出するに際に簡便法を使うことで、年数が短くなり、これにより1年あたりの減価償却費用が大きくなります。

これは木造住宅の耐用年数=22年ですが、この耐用年数に20%をかけたものでよいという事です。例えば築25年の物件でも22年×20%=4年 で償却できる事になります。北米の木造住宅では築30年、50年の物件はたくさんあり、一般的です。

例えば、築30年1億円の木造住宅、建物比率80% の場合1年の減価償却費用は2000万円です。
賃料50万円×12カ月の収入、経費が40%かかったとして、360万円の利益、ここから減価償却費を引くと1640万円の赤字になり、給与等の収入と合算されます。2000万円の収入の方は360万円の収入になり、この360万円に所得税が課せられます。かなりの節税になります。

今回の改正では、
 1)海外不動産所得での損益通算が出来なくなる
 2)この簡易計算方式 耐用年数×20%
のどちらかが改正される、もしくは両方、のようです。(執筆時)

こうした改正が行われると、海外不動産(とくに中古物件)を買う方は、大きく減ると思われます。もし、改正が行われず、次年度も現行のまま節税スキームが使えるとしても、近い将来変更の可能性は大ですから、かなり心配な投資となり手控える方が増えると思われます。

いずれにせよ、来年度からの税制度改革は、海外不動産投資を行っている方も、行っていない方も、要注目です。

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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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