2018年09月27日(最終更新:2023年06月02日)
今回のコラムでは、支払いの催促の場面でのポイントについて触れたうえで、明渡しを求める場合の流れ等の対応策について説明いたします。
収益用レジデンスを経営している中で、賃借人の賃料滞納に直面するケースは多々あろうかと思います。こうしたケースでは、まずは賃借人自身に支払うよう催促し、さらに連帯保証人を通じて支払いを促すといった対応が一般的でしょう。
しかし、それでも滞納が続く場合には、明渡しを求めざるを得ないケースも出て参ります。
支払いを催促する際には、まずは電話で催促されるのが一般的ではないでしょうか。電話で催促するのは簡単にできますので、特に滞納当初は電話で催促するのが現実的でしょう。
ただ、滞納期間が2ヶ月を越えるあたりからは、文書やFAX、メールなど、「賃借人に催促をした事実」が証拠として残る形で行うことが望ましいと考えます。
のちに明渡しを求めざるを得ないこととなった場合への布石として、予め証拠作りをしておくと、万が一紛争化した場合に賃貸人に有利な方向で効いてきます。
連帯保証人に対して催促する場合にも、文書等の残る形で送付することが望ましいといえます。
書面等には過去の滞納期間や滞納金額等を明記したうえで、状況が改善されない場合には明渡しを求めざるを得ない旨を記載し、定期的に送付することが考えられます。
なお、送付する場合には、文書手渡しの場合には受領サインを貰い、郵送の場合には配達証明等を利用し、FAXの場合には送信レポートを保管、メールの場合には開封通知の設定をするなどして、相手方が受領したことが分かるような証拠を確保できればより望ましいと考えます。
明渡しを求める場合には、①訴訟外での和解契約締結、②即決和解の利用、③訴訟の提起といった解決手段があります。③は期間が約1年~1年半ほど掛かることが多く、訴訟費用も必要となることから、賃借人との合意がある程度期待できる場合には①②の解決を目指すことになります。
他方、合意成立が期待できないような場合には、最初から③の手段を選ぶこともあるでしょうし、合意成立に向けた交渉が不調に終わった場合には③を選択せざるを得ません。
いずれの手段を取るにしても、相当期間を定めて賃料の支払いをすべきこと、支払いがない場合には賃貸借契約を解除することを内容とする催告書を事前に送ることになります。
この点、無催告解除特約を契約で定めている場合もありますが、裁判例では無催告解除が当然に有効とされているわけではないため、特約が定められている場合であっても催告をした方が安全です。
賃借人との合意成立に向けた交渉においては、明渡し猶予期間をどの程度設定するか、未払賃料の分割払い等の支払方法をどうするか、あるいは連帯保証人を置くなどの保全をどのように図るかが論点になります。賃借人の支払い余力、資産状況等を勘案しながら判断していくことが必要になります。
交渉を経て合意成立の見込みがついた場合には、簡便で費用も相対的に低い①の方法を選択することが一般的です。ただ、①の場合、賃借人が合意に違反した場合であっても、直ちに明渡しや差押等の強制執行に移ることができるわけではありません(強制執行には債務名義が必要ですが、訴訟外の和解契約は債務名義にあたらないためです。)。
執行をするには、改めて明渡請求訴訟、未払賃料請求訴訟を提起し、訴訟上の和解をするか請求認容判決を得る必要があります。また、公証役場で作成する公正証書は、賃料や賃料相当損害金等の金銭債権に関しては債務名義となって強制執行が可能となりますが、明渡しについては債務名義にならず利用することができないのです。
そこで、賃借人が合意に違反するリスクがあるような場合、例えば明渡猶予期間が長く、翻意することが危惧されるような場合には、②即決和解を利用することも検討対象となるでしょう。
この手続は、簡易裁判所で行われる1回の期日に双方が出席し、事前に当事者間で合意した和解内容で直ちに和解を成立させるというもので、債務名義になります。
もっとも、②は申立てから1ヶ月程度の時間を要し、弁護士費用も一定程度必要となりますので、こうした時間的・金銭的コストに見合うかという検討が必要になります。
この場合には、明渡及び未払賃料の支払いを求めて③訴訟を提起することになるでしょう。
それでは、裁判所はどのような場合に債務不履行に基づく賃貸借契約の解除を認めるかというと、単に債務不履行があるだけでは解除を認めていません。賃貸借契約が継続的な契約関係であることを重視して、「契約当事者間の信頼関係が破壊されたと言えるような特段の事情」がある場合にはじめて解除を認めているのです(「信頼関係破壊の法理」)。
信頼関係の破壊があったか否かは、使用目的、滞納金額及び頻度、目的物の利用状況及び人的関係性など様々な考慮要素が総合的に考慮されることになりますが、賃料滞納のケースであれば、3ヶ月分の滞納が、解除の認められる一つの目安とされています。
但し、賃貸人の側で、賃料の支払いが遅れることを受け入れ、一定期間待っていたという事情があるような場合には、賃貸人にとってマイナス要素となることがあります。
こうした事態を招かないためにも、前記2で述べたように、支払いの催促を証拠が残る形で行うべきと考えます。賃料滞納の場合には、明渡しを求める前の段階、すなわち支払いを催促する段階から、明渡しを求める場合を見越して証拠化等の策を講じるのが望ましいといえます。
弁護士 今井 智一(いまい ともかず)
今井関口法律事務所 代表弁護士
各種不動産取引は勿論のこと、企業法務分野を中心に幅広い経験を有している。
・東京大学経済学部経営学科卒業、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(法科大学院)修了
・東京弁護士会(第63期)
・栗林総合法律事務所及び清水直法律事務所を経て、2018年3月、銀座に今井関口法律事務所を開設
・株式会社エル・エム・ジー(LMG) 社外監査役(2016年~)