テレワーク恒常化の可能性と、変化を迫られる賃貸マンションのあり方
専門家コラム

テレワーク恒常化の可能性と、変化を迫られる賃貸マンションのあり方

第7波の拡大と活動の制限

新型コロナウイルスの影響が収束傾向に向かっていましたが、7月に入り再び新規感染者数が増えています。政府は、いち早く活動制限などを行わない方針を明言、それに続いて主要都市の知事も同じような見解を示しました。

多くの企業では、目立った制限を行っていませんが、一部企業の中には、出社を制限したり、集まっての会議を制限したり、再び制限モードに入っています。

2020年4月からの緊急事態宣言の時は、約7割の企業が出社を制限し、オフィス街は閑散としていました。しかし、この緊急事態宣言の時期よりもはるかに感染者が多い現在ですが、ある調査機関によればテレワークを行うサラリーマンは2割を切っているようです。

今後の展開は分かりませんが、おそらく平均して2~3割程度の方はテレワークを行うという状況が続くのではないでしょうか。

政府によるリモートワークの推進

振り返ってみれば、新型コロナウイルス感染症がまん延したことで、政府がワーク・ライフ・バランスの一環として推進してきたテレワーク(リモートワーク・在宅勤務)は、大企業から中小企業まで多くの企業が取り入れることになりました。

緊急事態宣言、まん延防止等重点措置が解除されても、多くの企業ではテレワークを認め(あるいは推奨し)ており、テレワークは一般化しました。それに伴い、住まいのあり方にも変化が見られます。家に「日常を過ごす自宅」だけではなく、「働く場所」の役割が加わったと言えるでしょう。

確実に増えたテレワーク実施者の状況

2022年(令和4年)3月末に、国土交通省から「令和3年度テレワーク人口実態調査」の結果が公表されました(調査方法はWEB調査、有効サンプル数4万人、就業者対象、2021年(令和3年)10月29日~11月4日に調査実施)。

この調査結果によれば、雇用型テレワーカー(企業に勤めるテレワーカー)の割合は、新型コロナウイルス感染症の対策として急増した2020年度(令和2年度)に比べ、さらに約4ポイント増加して27%となりました。

勤務地域別では、どの地域も2021年度に比べて引き続き上昇し、特に首都圏では34.1%→42.1%と大きく上昇し「テレワークが日常化」している実態がうかがえます。

テレワークは恒常化するのか

調査の内容を続ければ、雇用型テレワーカーのうち、89.4%が今後も継続する意向があると回答しており、理由としては新型コロナウイルス感染症の影響をあげる方が約半数となっています。

注目すべきは、「新型コロナウイルス感染収束後も継続意向がある」の回答が84.0%に達していることです。その理由として、「通勤時間の有効活用」「通勤の負担軽減」が理由の上位となっています。

一度テレワークに慣れてしまうと、「この方が効率が良い」と判断している企業や被雇用者が多いということでしょう。また、企業側から「テレワークの指示・推奨」を受けた方が7割を超えていることからも、テレワークは新型コロナウイルス感染収束後も、「あたりまえ」の状況になる可能性が高そうです。

どこでテレワークを行うのか

テレワークの継続意向がある雇用型テレワーカーへの質問では、「テレワークを実施したい場所」として、自宅が約84%で圧倒的多数となっています。最近増えているシェアオフィス(共同利用型オフィス等)は約9%と、まだまだシェアオフィスは一部の方々が使っている場所のようです。

しかし、主なテレワーク実施場所(約84%が自宅と回答)以外にシェアオフィス等を利用したい方は約49%で、利用意向ありと答えた方も合わせると約58%となっていますので、今後の状況次第ではテレワークの場所としてのシェアオフィスの利用は広まっていくのかもしれません。

シェアオフィスは、認知度は高まっているものの、自宅近くにあるとは限らず、また、使うことに抵抗がある方もいるのかもしれません。こうしてみれば、まだまだ浸透していないワークスペースと言えそうです。

自宅でテレワークを行わない理由

テレワークを行いたい場所としてシェアオフィスを選んだ方が、自宅で行わない理由は「仕事環境(執務部屋、机・椅子、インターネット利用環境等)が良くないから」が約45%、「自宅だとセキュリティ(情報漏洩等)に不安があるから」が約33%、そして「自宅だと家族に気兼ねするから」が約26%となっています。

変わる必要のある賃貸マンション

ここまでテレワークに関する調査結果をみてきました。

調査結果だけをみれば、多くの方が自宅でテレワークを行っており、この傾向が続きそうです。

この結果から、今後の賃貸住宅の間取りのあり方にも変化が出てきそうです。ワンルームマンションでも、少し工夫をこらしてベッドサイドなどに1畳程度ワークスペースを作っている物件も見られます。このように、単身者向けやカップル向けの賃貸マンションでは、テレワーク対応型の間取りに支持が集まりそうです。

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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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