2025年05月21日(最終更新:2025年05月21日)
2025年3月19日に早稲田国際不動産研究所より「第39回不動産投資短期観測調査」が公表されました。 この調査は不動産投資家に対して、賃貸住宅、オフィス(商業用不動産)、商業施設、物流施設、ビジネスホテル、ヘルスケア施設について、「期待IRR」、「期待キャップレート」、「フォワードキャップレート」についてアンケート調査を行い集計したものです。 このうち、東京の主要地域の賃貸住宅における期待キャップレートとフォワードキャップレートについて解説したいと思います。 (IRR:Internal Rate of Return)
第39回不動産投資短期観測調査は、不動産投資家へのアンケート調査を集計したもので、調査時点は2024年12月です。アンケート対象は公表されていませんが、不動産投資を専門としているアセットマネジメント会社・デベロッパー・商業銀行・投資銀行・生命保険会社・不動産賃貸業などと推測されます。
一般の不動産投資家においても、不動産投資を行う上で、「期待する」利回りを示すキャップレートの動向は、投資判断基準として役立つものと思います。
収益不動産の価値は、「どれくらいの収益性があるか」ということになりますが、この価値を不動産価格として算出する場合、将来的にその不動産が生み出すと予測できる収益をもとに、現在価値に換算することになります。キャップレートとは、「不動産投資における利回りの指標」の一つで、投資家の「期待利回り」のことを指します。キャップレートは、エリア(立地)や不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)によって、当然変わります。
収益還元法による不動産の価格算定には、直接還元法とDCF法がありますが、一般的な投資家が概略をつかむには直接還元法が便利です。直接還元法での収益不動産の価格算定は、現在の収益(NOI)が期間中続くものと想定して(ここがDCF法と異なります)、「年間収益(NOI) ÷ キャップレート=収益不動産の価格」で計算されます。個別性の強い収益不動産では割引率の目安としてキャップレート(Cap(i)が用いられることが多くなっています。(注:ここではNOIベースでの不動産価格。長期保有での大型修繕、積立金など=資本的支出を加味する場合は、NCF(ネットキャッシュフロー)ベースで計算)(NOI:Net Operating Income)
賃貸住宅の期待利回りは、2009年頃から徐々に下降し、全国的に最低水準が続いていますが、最新調査(第39回調査:2024年12月調査)では、東京城南地域の期待キャップレートは3.5%となり、前回と同じ値でした。前回調査(2024年6月時点)での半年先(つまり今回の調査時点)の予想フォワードキャップレートは3.5%でしたので、そのままの値となっています。
まあ、今回調査における半年先のフォワードキャップレートも3.5%ですので、この先も概ねキャップレートは変わらないと考える投資家が多いことがわかります。
東京城東地域は3.6%(前回と同じ)、半年先のフォワードキャップレートも3.6%と変わらず、となっています。
最もキャップレートが低いとされる(地域プレミアムが最も低いとされる)港区の3A地域(青山・赤坂・麻布)では期待キャップレートは3.3%、前回調査では3.2%でしたので、0.1ポイント上昇したことになります。同地域の半年先のフォワードキャップレートは3.3%と横ばいの予想です。
「年間収益(NOI) ÷ キャップレート=収益不動産の価格」とすれば、キャップレートの低下は、右辺である収益不動産の価格の上昇となります(単なる数学の話です)。しかし、昨今ではNOIにも変化が起こっています
NOIは、賃料等の収入から必要経費を引いたものですが、昨今は賃料上昇が顕著となっています。そのため、NOIが上昇している物件も多くみられ、仮に、こうした物件ではキャップレートが横ばいでも、左辺が増えるわけですから収益不動産の価格は上昇します。その一方で、管理費用なども上昇していますので、物件によっては相殺されてNOIが大きな変化がないものもあります。その場合、キャップレートの変化は、そのまま物件価格の上昇または下落となります。
賃貸住宅投資の期待利回りは引き続き最低の水準が続いています。2025年4月末に開催された日銀金融政策決定会合では政策金利は据え置きとなりましたが、2024年中には政策金利は上昇し0.5%となりました。それでも賃貸住宅への投資意欲は引き続き旺盛であり、収益物件としての賃貸住宅の取引価格は引き続き好調が続いています。また、今後供給される新築物件においても、土地価格、建物建築価格とも、相当上昇しており、販売価格は上昇する可能性が高いと思われます。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。