【吉崎誠二の不動産市況コラム】金利上昇の今の方が実は低金利?
専門家コラム

【吉崎誠二の不動産市況コラム】金利上昇の今の方が実は低金利?

2024年は金利が動いた年となりました。2024年3月の日銀金融政策決定会合では、いわゆるマイナス金利が解除され、7月の金融政策決定会合(2024年7月31日)では政策金利が事実上0.25%となり、2008年12月以来の金利水準となりました。久しぶりに「金利のある世界」が戻ってきました。

2013年以降の不動産市況の盛り上がりは、2012年の後半から徐々に底打ち感のあった不動産市況に金融緩和政策での低金利誘導策が、大きく跳ねる要因となった事は間違いないでしょう。

政策金利の上昇は、短期プライムレートの上昇、そして住宅ローンや不動産投資融資における変動金利上昇へつながることから、不動産市況への影響が危惧されましたが、2024年11月末現在では、不動産価格は安定して推移しています。

固定金利に影響のある長期国債金利は、2024年年初には0.6%台で推移していましたが、11月末は1%程度となっており、こちらも上昇しています。背景には、7月の会合で国債の買い入れ額を減額、月6兆円から段階的に3兆円にすることが決まったことが背景にあります。

インフレ率の現状と見通し

 金利上昇の背景には、物価上昇が大きく影響しています。日銀金融政策決定会合は2024年は8回開催されますが、そのうち1・4・7・10月の会合に合わせて年4回公表される日銀展望レポートにインフレ率見通しが発表されます。それによれば、

2024年のインフレ率見通し (コア:前年比)
[1月:2.4%] → [4月:2.8%] → [7月:2.5%] → [10月:2.5%]

2025年のインフレ率見通し(同)
[1月:1.8%] → [4月:1.9%] → [7月:2.1%] → [10月:1.9%]

2026年のインフレ率見通し(同)
(4月から)[4月:1.9%] → [7月:1.9%] → [10月:1.9%]

となっており、現在のインフレ率は2.5%程度、2025年・2026年は2%を少し下回る水準となる見通しのようです。

実質金利で見れば、今の方が低い

 不動産投資等で借り入れを行う際には、店頭金利(金融機関が公表している金利)から優遇分を引いたものが借入金利となりますが、実際に金銭消費貸借契約書を交わすこの金利は、名目金利と呼ばれます。その一方で、インフレ率を加味した金利は実質金利とよばれ、

として計算されます。

例えば、2016年のインフレ率は0.5%前後でしたので、その時仮に1.5%で借り入れしていれば、1.5%-0.5%=1.0%が実質金利となります。仮に2024年に2.0%で借り入れしたとすれば、インフレ率は前述の通り2.5%として、実質金利は2.0%-2.5%=-0.5%となり、名目金利を比較すれば金利上昇していますが、実質金利を比較すれば、金利は低下している事になります。実質金利でみれば、借入金利次第ですが、今の方が低金利のことも多いようです。

政策金利は妥当か?

また現在のようなインフレ下では、それに合わせて金利が上がるのが自然ですが、金利のベースとなる政策金利は、理論上以下の式となります。

理論上の政策金利 = 自然利子率 + 予想インフレ率

自然利子率は、経済や物価に対して引締め的でも緩和的でもない、景気に中立的な実質金利のことですが、自然利子率を内閣府が2023年に示した潜在成長率を自然利子率に適用すれば0.0~0.5%前後。最近のいくつかのシンクタンクの公表数字では-0.5と算出しているものが多いようです。

2025年のインフレ率見通しを2%として上の式に当てはめて計算すれば、理論上の政策金利は1.5%程度ということになります。現在の政策金利は冒頭に述べたように0.25%ですから、まだだいぶ金融緩和している状況にあると言えそうです。また、理論式に当てはめれば1.5%ですが、この先1%前後までの上昇可能性はあるとみておいた方がよいと思われます。

このように考えれば、まだ金融緩和政策は続いており、そのために多少金利が上昇している現在でも不動産価格は上昇しており、投資家の投資意欲は高いことも理解できます。

 

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