貸家新設着工件数が住宅着工総数増を牽引! 増加の背景と2022年貸家着工戸数の見込み
専門家コラム

貸家新設着工件数が住宅着工総数増を牽引! 増加の背景と2022年貸家着工戸数の見込み

堅調に増加し続ける新設住宅着工件数

新設住宅着工件数は、21年3月以降1年以上にわたり(22年3月末時点)前年同月比プラスが続いています。

この間、貸家は全てプラスで、(持ち家、分譲のカテゴリーはマイナスの月もあり)、貸家新設着工件数が、住宅着工総数増を牽引する形となっています。

2020年以降の貸家着工戸数の推移を移動年計で分析

2020年以降の貸家着工戸数の推移を移動年計で分析

引用:国土交通省「住宅着工統計」

上記の図は、2020年1月からの貸家着工戸数移動年計の推移を示しています。ご承知の方も多いと思いますが、移動年計とは、その月を含めて過去12か月の合計のことです。

2020年はコロナショックの影響が大きく、月を追うごとに移動年計が減少していき、2021年1月の移動年計(つまり、2020年2月~21年1月合計です)が底となっています。

その後、実際の月単位での貸家着工戸数がプラスに転じる3月からは、右肩上がりに増加していることが分かります。とくに、22年1月以降は、1月プラス17%(前年同月比)、2月5%(同)、3月プラス19%(同)と大きく増えていることが、グラフからも分かります。

貸家着工戸数は、コロナショック前の水準までの回復には少し届いていませんが、かなり回復しているという状況と言えます。

参考:国土交通省「建築・住宅関係統計」

貸家着工戸数増加の背景

貸家着工戸数が21年3月以降前年同月比プラスになっていたのは、20年の落込みからの反動増が主な理由と考えられます。

この間、前年同月比プラスの幅は、101%(21年11月)~119%(22年3月)で、貸家着工戸数の月別の実数では、唯一22年3月が3万戸を超え、3万2000戸台となっています。これは、2018年11月を最後に、実に3年4か月ぶりの事でした。

また、反動増に加えて、22年に入り金利上昇可能性が高くなってきたことによる、「いまのうちに」との思いからの「金利上昇前の駆け込み」があったことも要因だと思われます。

さらに、5月20日発表の全国消費者物価指数(CPI)は前年同月比でプラス2.0%となり、消費増税を除けば10年以上ぶりの高い値となりました。このようにインフレ懸念が高まっていることから、「インフレ連動資産」として不動産を所有する思考の方が増えていることや、「インフレヘッジ」のために不動産賃料収入を得ようとしている方が増えていることも背景にあると考えられます。

住宅家賃は消費者物価の項目の1つであり、インフレに連動することが知られています(注:ただし遅効性があります)。

2022年貸家着工戸数の見込み

それでは、2022年の貸家着工戸数の見込みについて検討してみましょう。貸家着工戸数の年計は2019年が約34.2万戸、2020年は約30.6万戸、2021年は32.1万戸と推移してきました。

大きく落ち込んだ2年を経て、2022年3月時点での移動年計は約33万戸まで回復してきました。22年に入り1~3月の前年同月比の平均は113%でしたので、このままの流れが続くとすれば、約36万戸にまで回復することになります。仮に年間合計10%を超える増になるとすれば、消費増税前後(2014年)以来の大きな増加となります。

しかし、インフレがより鮮明になると、金利上昇の可能性が高まり、そうなれば今の勢いに水を差すことにもなりかねません。そうすれば、22年3・4月のアメリカの住宅市場で見られたように勢いにブレーキがかかるかもしれません。

しかし、22年4月末の日銀金融政策決定会合で黒田総裁は、「金融緩和を止める状況にない」と明言し、「政策金利はしばらく上げない」と発言しました。

今後は、多少の借り入れ金利の上昇はあるかもしれませんが、米国のような急激な上昇はないようですから、少なくとも22年は超低金利が続くものと思われます。

このような状況から考えると、2022年の貸家着工戸数は少なくとも35万戸前後にまで回復するものと考えられます。

不動産投資家が注目すべき指標、 貸家着工戸数が回復傾向
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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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