2023年10月16日(最終更新:2024年01月22日)
2023年の都道府県地価調査が国土交通省より9月19日に公表されました。都道府県地価調査は、毎年7月1日を基準とし、21,381ある「基準地」の地価を不動産鑑定士が鑑定します。この調査結果により公表される地価は、「基準地」の地価ということで、「基準地価」とも呼ばれます。
目次
2023年都道府県地価調査では、全国平均で、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年連続で上昇、すべて昨年を上回る上昇率となりました。
全国平均では、全用途平均は1.0%の上昇(昨年はプラス0.3%)、2020年、2021年はマイナスでしたが、その後は価格上昇が続いています。
住宅地は0.7%の上昇(昨年はプラス0.1%)でした。昨年は31年ぶりにプラスになったことが話題となりましたが、2年連続のプラスとなりました。 商業地は1.5%の上昇(昨年はプラス0.5%)となりました。2017年から2019年まで3年連続の上昇のあと、新型コロナウイルスの影響を大きく受けた3年間を経て昨年から連続してプラスになりました。
3大都市圏(東京圏・大阪圏・名古屋圏)では、全用途平均、住宅地、商業地、いずれも、上昇しています。すべてが上昇したのは2年連続となりました。 全用途平均と商業地は、東京圏は11年連続の上昇、大阪圏は2年連続、名古屋圏は3年連続の上昇となりました。また、新型コロナウイルスがまん延した2020年に全国的に下がった住宅地地価は東京圏と名古屋圏では3年連続、大阪圏は2年連続で上昇、それぞれ全てで上昇幅が拡大しました。
都市部中心地域や生活利便性の高い地域では、住宅需要はかなり堅調であり、金融緩和政策の継続から住宅ローンも低金利が続いていることなどが需要の下支えとなり、住宅地地価上昇が継続しています。 都市部の商業地においては、コロナ後の人流回復を受けて、店舗需要は回復が鮮明となり、さらに新型コロナウイルス感染症の第5類への移行にともないオフィス需要も堅調となっていることから地価上昇傾向がより鮮明となっています。
圏域別では、東京圏ではプラス2.6%(前年はプラス1.2%)、大阪圏1.1%(前年はプラス0.4%)、名古屋圏プラス2.2%(前年はプラス1.6%)となっています。
三大都市圏以外に目を向ければ、地方圏全体は前述のとおりプラス0.1%(前年はマイナス0.2%)。このうち地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると、プラス7.5%(前年はプラス6.6%)となりました。また、地方4市を除けばマイナス0.2%で、来年も現状が続けばプラスが期待できそうです。
商業地地価を圏域別にみれば、東京圏ではプラス4.3%(前年はプラス2.0%)、大阪圏はプラス3.6%(前年はプラス1.5%)、名古屋圏はプラス3.4%(前年はプラス2.3%)となりました。前年に引き続き3大都市圏が全てプラスとなりました。
商業地においても、地方圏の上昇が顕著となっています。
地方圏全体ではプラス0.5%(前年はマイナス0.1%、前々年はマイナス0.7%)で、2019年以来のプラス圏となりました。
地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限るとプラス9.0%、前年はプラス6.9%でしたので、さらに上昇幅が拡大したことになります。4市を除く地方圏ではプラス0.1%となり(前年はマイナス0.5%)、その他地方圏でも商業地地価上昇となりました。
いずれの地域も、商業地地価上昇が顕著ですが、新型コロナウイルスの影響前の2019年ほどの上昇率には戻っていません。住宅地の上昇率は、2019年程度に戻っていますので、商業地の方が、影響が大きく、未だ回復半ばと言えるでしょう。
上昇の背景にある大きな要因としては、以下の2つです。
まず、新型コロナウイルス感染症の第5類への移行に伴いオフィス需要が回復し、国内外の観光需要・出張需要の回復、店舗需要の回復が大きく寄与したと思われます。
そして、マンション需要堅調、マンション価格上昇が続いており、マンション用地需要との競合により、商業地地価上昇に繋がっています。また、再開発事業が、首都圏だけでなく全国の主要都市で盛んに行われており、利便性・繁華性向上の期待感から地価上昇が続いています。再開発周辺地には多くのマンションが建設され、こうした流れも商業地地価上昇に拍車をかけています。
物価上昇が続いていることや需給ギャップがプラス圏に向かっていること、賃金の上昇が少しずつ見られ始めていることなどから、2024年に入れば基準金利がマイナス圏からプラス圏になる可能性が出てきました。仮に金融緩和政策が多少緩和されたとしても、僅かな範囲に留まるのであれば、大きな変化はないと思われます。
こうした状況を踏まえれば、2024年9月に公表される基準地価は、今年を上回る上昇可能性が高いと思われます。ただし、この1年間の間に金利上昇が複数回行われば、後半は失速する可能性も否定できないでしょう。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。