【不動産の法律 第5回】サブリース契約の内容を確認するときのポイント
専門家コラム

【不動産の法律 第5回】サブリース契約の内容を確認するときのポイント

サブリース契約の内容を確認するときのポイント

1.はじめに

これから収益物件のオーナーになろうとする方や、既にオーナーである方の中には、「賃料保証」「一括借上げ」を謳うサブリース契約について検討された方も多いのではないでしょうか。もっとも、「賃料保証」とはいっても、実際に賃料収入が減額されることなく一定収入が見込めるのかについては、契約内容によって異なってきます。

今回のコラムでは、サブリース契約において賃料が実際に「保証」されるのかという点を説明しつつ、オーナー様がサブリース契約を締結する場合に注意すべき点などについてご説明いたします。

2.サブリース契約の性質について

最初に、サブリース契約の性質について簡単に説明いたします。

サブリース契約の性質については、以前は委任・請負契約と賃貸借契約の複合的な契約であるとか、賃貸借契約と賃料の保証契約の複合的な契約などといった理解もありました。しかし、現在では、(1)オーナー様とデベロッパー間の賃貸借契約(マスターリース)と、(2)デベロッパーと居住者・テナント間の転貸借契約(サブリース)の二つからなると整理されています。デベロッパーは、オーナー様との関係では賃借人であり、同時に、居住者・テナントとの関係では転貸人にあたることになります。

そして、このようにサブリース契約というのは結局のところ賃貸借契約と転貸借契約であるという点が、賃料が保証されるか否かという点に影響してくるのです(なお、上述のとおりオーナー様がデベロッパーと締結する賃貸借契約はマスターリース契約にあたりますが、本稿ではこの賃貸借契約についてもサブリース契約と表記いたします。)。

なお、サブリース契約を普通建物賃貸借で行うのか定期建物賃貸借で行うのかで、後記5で述べるとおり違いがあるのですが、まずは普通建物賃貸借を前提として説明いたします。

3.賃料は保証されるのか

(1)サブリース契約において、賃料が保証されるのか。この点については、まず、デベロッパーが賃料減額請求をすること自体が認められるのかという点が問題になります。というのも、サブリース契約には賃料増額特約や賃料保証特約が設けられている一方で、借地借家法では、建物の借賃が各種の事情で不相当となったときは、「契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる」とされているためです(借地借家法32条1項本文)。

この点については、以前は裁判所の判断も分かれていたのですが、平成15年に最高裁の判決が出てからは、賃料増額特約や賃料不減額特約等の賃料保証特約が定められていたとしても、デベロッパーが賃料減額請求をすること自体は認められることになりました(最高裁平成15年10月21日、同月23日、平成16年11月8日判決など)。上記2.で述べたように、サブリース契約も結局は賃貸借契約である以上は借地借家法の適用がある、そして借地借家法32条1項は、契約条件にかかわらず賃料増減請求ができるという強行法規(当事者間の合意内容にかかわらず、法規の定めが優先されること)であることがその理由です。

したがって、オーナー様としては、サブリース契約に賃料保証特約が設けられていたとしても、それだけでは賃料減額請求を起こされる可能性を排除することは難しいということになります。

(2)賃料減額請求を起こされる可能性があるとして、次に問題となるのは賃料減額が実際に認められるか否かです。

賃料減額が認められるかについては、租税等の負担の増減や経済事情の変動、あるいは近隣の同じような建物の賃料額と比べて妥当かといった事案ごとの複数の要素が絡みあって判断されることになります。そのため、結論は事案ごとに異なり、賃料減額が認められるかについては一概に述べることはできません。

しかしながら、裁判所は判断の方向性として、オーナー様とデベロッパー間でサブリース契約を締結した経緯や賃料を決定するにあたって判断要素とした事情、そして、賃料保証特約の条項が存在しているという事実自体が重要な事情として十分に考慮されるべきと述べています(最高裁平成15年10月21日、同月23日、平成16年11月8日判決など)。

つまり、サブリース契約に賃料保証特約が設けられていても賃料減額請求は起こされるものの、減額を裁判所が認めるのか、減額を認めるとしてもどの程度の金額か、という点の判断に際して、賃料保証特約が設けられているという事実自体が重視され、オーナー様にとって有利な要素となりうるということになるのです。

それでは、賃料保証特約であれば、どのような内容であっても有利な要素となるのでしょうか。この点については、特約の内容によって有利な要素になる場合とならない場合があると考えられます。オーナー様が契約内容を確認するにあたって注意すべき点のひとつといえますので、次項で説明いたします。

4.賃料保証条項はどのような内容であれば有利な要素となるのか

賃料保証条項には、大きく分けて(a)賃料増額特約や(b)賃料不減額特約が考えられます。また、(a)賃料増額特約の中でも、(a-1)自動増額特約とそうではない増額特約、すなわち(a-2)当事者間協議による決定を前提とした増額特約があります。

この点、裁判例の中には、(a-2)当事者間協議による決定を前提とした増額特約が設けられていたサブリース契約の事案で、「あくまで当事者の協議による決定を賃料増額の要件として」おり、「自動的に増額する旨の特約でないことは明らか」で、かつ「従前、協議により、増額だけでなく、賃料の据え置き及び減額もされてきた」という経緯に鑑みて、この賃料保証条項それ自体は賃料減額請求の判断にあたって重要視することはできないと判断したものがあります(東京地裁平成18年9月8日判決)。

この裁判例から考えると、賃料増額特約を設けていたとしても、(a-2)当事者間協議による決定を前提とした増額特約であり、かつ、協議によって増額が必ずしも行われていなかったという事情がある場合には、必ずしも有利な要素として働かない可能性もあるのです。

そうすると、オーナー様にとっては(a-1)賃料自動増額特約が有利となる可能性が高いと考えられます。

5.定期建物賃貸借の場合における賃料保証条項の効力

さて、ここまで述べてきたのは普通建物賃貸借形式を前提とした内容でした。

しかし、サブリース契約を定期建物賃貸借として締結する場合には事情が異なってきます。借地借家法は、定期建物賃貸借の場合については、賃料改定に関する特約が定められている場合には、前記3(1)で述べた借地借家法32条1項(契約条件にかかわらず賃料増減請求ができるという強行法規)を適用しないとしています(借地借家法38条7項)。すなわち、定期建物賃貸借で、かつ賃料保証条項を置いた場合には、賃料減額請求は認められないことになります(他方で、オーナー様からの賃料増額請求も認められません。)。

そのため、一定の期間内の賃料額については減額を認めず支払いを受けたいという場合には、定期建物賃貸借とすることも選択肢として考えられます。

ただし、定期建物賃貸借は、原則として契約更新がないことから、基本的にはデベロッパーとのサブリース関係は定期建物賃貸借の期間内限りとなります。それ以降はデベロッパーを介さず、オーナー様ご自身と居住者・テナントとの直接の賃貸借契約となりますので、管理の手間が発生したり、収益物件の空室リスク等が直接的にオーナー様に生じますので、留意が必要です。

なお、定期建物賃貸借を締結する場合には、契約締結前に説明書面を交付するなど幾つかの要件を満たす必要がありますので、専門家にご確認いただくことをお勧めいたします。

6.サブリース契約の確認に際して重要な他の項目

サブリース契約においては、まず、賃料保証を巡って定期建物賃貸借にするのか、それとも普通建物賃貸借にするのかという選択の問題があります。定期建物賃貸借の場合には、賃料保証される定期期間の年数をどの程度とするかという問題があり、普通建物賃貸借を選択した場合には、どのような賃料保証条項とするかという問題がある点はこれまで述べたとおりです。

これらの点に加えて、

①修繕義務の範囲はどの程度か、
②一定年数での大規模改修義務が課されていないか、
③デベロッパーと入居者・テナント間の転貸借契約の内容開示やオーナー様による契約内容の事前承諾といった内容が規定されているか、
④入居者・テナントの事前情報開示が規定されているか、
⑤デベロッパーが入居者・テナントから受領した更新料や礼金の分配規定があるか、

などの点がチェック項目として考えられるところです。

サブリース契約の内容確認については専門的知識が必要ですので、専門家にご相談いただくことをお勧めいたします。

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弁護士 今井 智一(いまい ともかず)

今井関口法律事務所 代表弁護士

各種不動産取引は勿論のこと、企業法務分野を中心に幅広い経験を有している。

・東京大学経済学部経営学科卒業、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(法科大学院)修了
・東京弁護士会(第63期)
・栗林総合法律事務所及び清水直法律事務所を経て、2018年3月、銀座に今井関口法律事務所を開設
・株式会社エル・エム・ジー(LMG) 社外監査役(2016年~)

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