【吉崎誠二の不動産市況コラム】賃貸住宅投資がインフレ・ヘッジに有効な理由
専門家コラム

【吉崎誠二の不動産市況コラム】賃貸住宅投資がインフレ・ヘッジに有効な理由

インフレに強い資産と言われる賃貸用不動産。1棟モノの賃貸住宅を購入される方、投資用の区分マンションを購入される方、その他いわゆる「実物不動産」に投資を行う方、行う企業はますます増えており、全国主要都市のキャップレートはどこも最低水準(=投資目的の不動産価格の上昇)となっています。

今回の原稿では、「賃貸住宅への投資がインフレ・ヘッジに有効な理由」について考えてみます。

物価上昇の状況

まず、7月27日(執筆時点)の物価上昇の状況を見てみましょう。

7月21日に総務省から発表された全国消費者物価指数(23年6月分)は生鮮食料品を除いたコアCPIが前年同月比プラス3.3%でした。変動が大きい生鮮食料品とエネルギー関連を除いたコアコアCPI(アメリカ型コア指数)では前年同月比プラス4.2%(前月はプラス4.3%)、コアコアCPIは前月比ではプラス0.2%となりました。

また、7月28日に全国消費者物価指数の先行指標となる、東京都区部消費者物価指数(7月分)が発表になり、この結果にも注目したいところですが、「コストプッシュが主な要因で22年後半から始まった物価上昇は収まっているとは言いにくいものの、徐々に上昇の勢いは収まりつつある」というのが7月末の状況です。

しかし、この先賃金の上昇が広まってくれば、コストプッシュ型の物価上昇から、経済循環によるインフレへと移行することも考えられます。「インフレ率を状況に合わせて適切に導くこと」が日銀の大きな役割ですが、7月27日-28日に行われている日銀金融政策決定会合に注目が集まります。

インフレに強い資産と弱い資産

インフレになれば、現金資産を現金としてそのまま持ち続けた場合は、現金の価値が目減りしてしまいます。

理論上インフレに弱い資産の例としては、

・現金
・定額年金、運用性の高い終身・養老保険
・預金(特に長期の定期預金)
・債券(特に満期までの期間が長期のもの)

などがあります。

一方で、インフレに強い資産としては、物価上昇に連動して価格上昇する、賃料収入のある資産、そして価値にブレの少ないものということになります。

例えば、

・土地
・不動産
・コモディティ(金など)

です。

このような理由で、物価上昇が鮮明になってきて、さらに「実物不動産」を買う方が増えているというわけです。

インフレ期には家賃も上がる可能性が大きい

繰り返しになりますが、不動産を所有するメリットの1つにインフレ・ヘッジがあげられます。長期的に現金を運用しようとした場合には,物価が大きく上昇すれば、その資産そのものが目減りしてしまうということが最大のリスクであると言えるでしょう。インフレが起こったときに資産インフレも同時に起これば、そのリスクを回避することができるわけです。

また、家賃(帰属家賃含む)は、消費者物価指数の約20~25%程度の寄与率があることを考えれば、物価が上がるということは家賃も上がる可能性が高くなります。このように考えれば、賃料収入がある不動産へ投資、とくに賃貸住宅への投資は、インフレ防衛策になるというわけです。

家賃は物価上昇に遅れて上昇

先に述べたように、家賃はインフレ期には上昇圧力がかかります。逆にデフレ基調の時には家賃下落圧力がかかります。民間家賃も物価の1つですので、これは当然の流れと言えます。(ただし、過去の例では、デフレ期に、特に家賃は大きな下落は見られません。)

しかし、どんな不動産物件の賃料でも、「遅効性」という性質があります。そのため、インフレになると直ちに賃料が上昇するということはありません。(下落も同じです)。

例えば、賃貸住宅の契約は、2年ごと更新というのが一般的です。そのため、2年以上の好景気が続くと、上昇が顕著になります。ちょっとした単年の景気変化では、あまり大きな変化はないということです。

これまでを見れば、例えば2013年以降、経済市況・不動産市況とも徐々に好転してきましたが、賃料上昇が数字見られるようになったのは、2018年頃以降のことです。また、家賃の上昇は、大都市部から地方主要都市への波及が見られましたが、過疎化が進むような地方では変わらず賃料は低いままの状況です。

24年から家賃は、大きく上昇か?

冒頭で述べたように、我が国で物価上昇が顕著になってきたのは、22年の半ばくらいからです。

このところ、首都圏ではファミリータイプ、DINKSタイプ、ワンルームタイプ、いずれもジワリと家賃上昇がつづいています。いまの流れが続くとすれば、家賃の上昇が、一押す顕著になるのは、24年に入ってからになると思われます。

不動産投資はインフレ対策に有効!? 物価と民間家賃の推移の関係を考察
不動産投資はインフレ対策に有効!? 物価と民間家賃の推移の関係を考察
2019年3月もアイスクリームや缶詰など、身近な商品が値上がりしました。最近は、“相次ぐ”とセットで報道されることが多くなり、物価の上昇を感じる機会も多くなってきたのではないでしょうか? 今回は、実生...

不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

メルマガ登録
セミナー申込