【吉崎誠二の不動産市況コラム】最新令和7年(2025年)地価公示を読み解く
専門家コラム

【吉崎誠二の不動産市況コラム】最新令和7年(2025年)地価公示を読み解く

令和7年(2025年)分の地価公示が3月18日に公表されました。地価公示法に基づく地価(=公示地価)は、毎年1月1日を価格時点として3月に公表されます。

ここでは、全国の地価動向の俯瞰と東京圏の住宅地の地価公示の動向を解説します。

2025年の地価公示の全体俯瞰

全国の全用途平均(全用途=住宅地・商業地・宅地見込地・工業地)は、前年比2.7%の上昇となりました。前年は2.3%でしたので、伸び率は前年を上回っています。過去4年を振り返れば2022年:+0.6%、2023年:+1.6%でしたので、4年連続して全国平均で上昇、そして連続して上昇幅が拡大しています。

全国平均を用途別にみれば、住宅地は+2.1%(前年は+2.0%、前々年は+1.4%)、商業地は+3.9%(前年は+3.1%、前々年は+1.8%)となっており、コロナ禍後の2021年以降、いずれも4年連続の上昇、そして毎年上昇幅が拡大しています。

地方の地価も上昇しており、住宅地でみれば、30の都道府県で上昇、横ばい2、下落15となっており、大都市圏から地方への波及がうかがえます。

地価上昇の背景

上昇幅が拡大している要因としては、東京圏や大阪圏での拡大(名古屋圏は上昇幅縮小)していることに加えて、地方都市も含めて、広く全国的に地価上昇の傾向にあることが挙げられます。

その全国的に上昇している背景としては、

  •   ① 政策金利は多少上昇しているものの、実質金利で見れば依然として低金利が続いている
  •     (注:実質金利は名目金利-インフレ率)
  •   ② 多少の円高傾向ではあるが、依然として円安基調が続いている
  •   ③ 地方観光地などでは、インバウンド需要の拡大に伴い投資マネーが流入している
  •   ④ 大都市圏での再開発は続いており、この先の計画も進んでいる
  •   ⑤ 地方都市でも再開発が進み、生活利便性が向上している

などが挙げられます。

バブルの様相は見られない、昨今の地価上昇

地価上昇は2014年ごろから大都市圏や地方主要都市で見られるようになり、コロナ禍の時(地価公示は価格時点が1月1日のため、影響は2021年分に表れています)を除いて、広いエリアで長く地価上昇が続いています。この状況について「バブル期の再来」と考える方もいるかもしれません。

たしかに、全国全用途平均の伸び率では、1991年(バブル期と呼ばれた最終年)に11.3%に次ぐ伸びとなっています。また、大都市圏での上昇が目立ったミニバブル期の最終年(2008年)の1.7%を超えています。期間でみれば、地価におけるバブル期と呼ばれるのは1985年頃から1991年頃(ちなみに、株式市場では、この間の日経平均は1989年年末が最高値)で約7年間、ミニバブル期は2005年~2008年で約4年間ですが、今の不動産好景気は、地価で見れば、2014年頃から続いていますので、約10年(コロナ禍期の1年を含めて)となっています(継続中)。

このように、バブル期やミニバブル期と比べれば、このところの地価上昇は、                   「ゆっくり、ジワジワと長期間」というのが特徴です。

また、バブル期の地価は、物価上昇率をはるかに超える伸び率でしたが、昨今の地価上昇は物価上昇程度となっています。また、賃貸住宅、オフィスビル、商業施設などの空室率の低さをみれば、「実需が伴っている」という状況です。こうしたことからも、「バブル」という様相は見られず、確かな実需に基づいた相応的な地価上昇と言えるでしょう。

住宅地の全国俯瞰

図1は2006年以降の住宅地地価の変動率を圏域別に見たものです。

全国・三大都市圏・地方圏(地方四市は上昇幅縮小)で上昇幅が大きくなりました。都市部では、堅調な住宅需要に支えられて引き続き住宅価格、とくにマンション価格の上昇が続いています。

地方四市(札幌・仙台・広島・福岡)では2年連続して昨年より上昇幅は縮まりました。過去10年間に渡り大きな上昇を受けて、多少上昇率が鈍化していますが、それでも+5.8%と高い伸びとなっています。

また、地方四市を除く「その他地方」は、+0.8%と前年を超える上昇となりました。また、地方都市での再開発が増え、加えて国内外から人気の高いリゾート地や別荘地、その周辺地域などで地価上昇が顕著となっています。

東京圏住宅地の状況

東京圏(東京都区部や多摩地区、神奈川県・千葉県・埼玉県の主要地域など)では全用途平均で+5.2%の上昇(前年は+4.0%、前々年は+2.4%)、住宅地は+4.2%の上昇(前年は+3.4%、前々年は+2.1%、さらにその前は+0.6%)、商業地は+8.2%(前年は+5.6%、前々年は+3.0%)となりました。いずれも4年連続で上昇し、上昇幅も拡大しています。

住宅地では、特に東京都区部(23区)の勢いは強く、下落した地点はゼロとなっています。

23区平均の住宅地上昇率は+7.9%(前年は+5.4%、前々年は+3.4%)でした。区の単位で見ても、4年連続して23区全てにおいて上昇、また上昇幅も全ての区で拡大しました。最も上昇率が高いのは中央区で+13.9%(前年は+7.5%)、次いで港区+12.7%(前年は+7.2%)、目黒区+12.5%(前年は+7.3%)となっています。マンション需要の旺盛な地域においてはマンション価格が大きく上昇し、それに伴い地価の上昇が顕著となっています。目黒区青葉台の地点では+18.9%と全国住宅地の全地点の中で10番目に高い伸びとなりました。逆に、23区内で最も上昇率の低い地点(練馬区の地点)でも+2.2%となっています。

都心3区(千代田区・中央区・港区)にフォーカスすれば、

  •  千代田区  +6.7% → +10.9%(2024年の上昇率と2025年の上昇率:以下同じ)、
  •  中央区   +7.5% → +13.9%、
  •  港区    +7.2% → +12.7%

となっています。いずれの地域も住環境・利便性に優れ、ステータス性があり、分譲マンションの販売状況は堅調、中古マンション価格も大きく上昇しています。

また、収益不動産の価格を見ても、大学生、社会人の単身需要が増加しており、投資家にとっては収益賃貸物件の安定性が再認識されているほか、近年顕著なインフレに対してヘッジになるとの思惑から、引き続き投資用不動産としての需要が旺盛となっています。

また、23区中心部の地価上昇の波及効果により23区外縁部にも影響を及ぼしており、上昇率は中心部ほどではないものの、地価上昇幅は拡大しています。

東京圏全体での住宅地の状況をみれば、下落地域は、圏内外縁部の、わずかな地域しかなく、郊外も含めて広範囲に地価上昇している状況となっています。

2026年の展望

2025年1月末に政策金利が上がり、執筆時点(3月末)では+0.5%となりました。変動金利を引き上げると公表する金融機関が増えてきました。2025年中にはもう1回か2回の政策金利上昇の可能性があると思われ、それに伴い変動金利はもう一段、上昇する可能性があります。しかしながら、(名目金利-予想インフレ率)で計算される実質金利をみれば、以前よりも低い状態のため、実質的にはまだまだ「金融緩和」状況にあるといえます。このような状況ですから、2026年3月に公表される地価公示では、引き続き全国的に上昇する可能性が高いと思われます。

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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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