【吉崎誠二の不動産市況コラム】政策金利の上昇で借入時の変動金利に変化はあるのか?
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【吉崎誠二の不動産市況コラム】政策金利の上昇で借入時の変動金利に変化はあるのか?

日銀は2025年1月24日、政策金利(誘導目標金利)をそれまでの0.25%から0.5%へとする決定を発表しました。政策金利の利上げは2024年7月末以来半年ぶり、2024年3月以降では3回目となる利上げを行いました。政策金利が0.5%を超えるのは、実に17年ぶりです。

この決定を受けて、多くの銀行が3月以降の預金金利を0.2%とすることになり、利息が実感できる状況となってきました。また、不動産投資や住宅ローンにおける借入金利も上昇する可能性が出てきました。

今回のコラムでは、政策金利の上昇による不動産市況の影響について考えます。

 

まず初めに、「政策金利とは何か」について解説するところから始めましょう。

政策金利とは

「政策金利」は我が国における金融政策の基準となる金利ですが、より具体的にいえば、「物価の安定、需給のバランス調整、景気の動向、など金融・経済政策上の目的を達成するために、中央銀行(日本においては日本銀行)が設定する短期金利のこと」で、目標達成のための金利、つまり誘導目標金利ということになります。

かつては、公定歩合とよばれた、「日銀と市中銀行とのやりとりの際の金利」が金融政策の基準金利でしたが、金融自由化を経て現在は「政策金利」がその位置づけとなっています。

政策金利が上がると

政策金利が上昇する局面は物価上昇局面となりますが、政策金利の上昇により多くの金融政策に変化がおこります。ダイレクトに変化するものとしては、貸出においては金融機関の短期融資の時に適用される短期プライムレートの上昇の可能性が高まることで、結果として不動産投資や住宅ローン融資の「変動金利」の上昇の可能性が高まります。一方、預金金利も上昇しますので、「預金しても利息がほとんどゼロ」からは、多少脱しつつあります。今回の利上げ後の普通預金金利(3月以降適用)は0.2%となる銀行が多いようです。

次に、「短期プライムレート」とはどんな金利なのでしょうか。

短期プライムレートとは

「短期プライムレート」とは、「短プラ」と略されることもありますが、「短期」で「プライム(優遇)」された金利のことです。金融機関での短期とは1年未満のことを指します。

これらをまとめると、「銀行などの金融機関が信用力の高い優良企業向けに、1年未満の短期貸出融資の際に適用する最優遇金利のこと」となります。ちなみに、1年以上の場合は、「長期」プライムレートが適用されます。

短期プライムレートと住宅ローン

短期プライムレートは、住宅ローンや不動産投資の借入などにおける変動金利の基準となる金利です。

しかし、実際の住宅ローンの変動金利の利率をみれば、短期プライムレート以上に低くなっていることが多くなっています。銀行などでは「店頭金利」という掲げられた金利から「優遇金利」分を引いて提示され、結果短期プライムレートより低くなります。昨今の金融機関の住宅ローンの変動金利をみれば、短期プライムレートよりも約1%程度は低い状況です。前述のように、短期プライムレートは「最優遇」金利ですので、それ以上に「優遇された」金利が適用されているのが住宅ローンということになります。

その背景には、国が住宅取得を推進しており、金融機関もそれに応じていること、そして住宅ローンはデフォルト率が低く、金融機関にとってはリスクの少ない商品であること、また金融機関の間で貸出先を競っていること、などが要因と思われます。

短期プライムレートはどれくらい上昇するのか

政策金利の上昇に伴い、短期プライムレートを上昇させる金融機関が多いようですが、2024年7月末に政策金利が0% → 0.25%となった際には、それまでの1.475% → 1.625%と、政策金利の上昇(+0.25%)よりも小幅な0.15%分を引き上げる銀行が多かったようです。しかし、今回は、政策金利の上昇分である0.25%引き上げる銀行が多いようです。現在(2025年1月末)の短期プライムレートは、1.625%の銀行が多いようですが、これが3月からは0.25%分上昇し1.875%となるようです。

さて、こうなると変動金利で住宅ローンや不動産投資のための融資を受けている方は心配になります。

変動金利は上がるのか?

ご承知のとおり、借入時の金利には、「変動金利」と「固定金利」があり、現在は、住宅ローン融資において約7割の方、不動産投資でも多くの方が「変動型」を選択しているようです。

前述のとおり前回(2024年7月末)の政策金利の利上げが行われた際には、その後の短期プライムレートは0.15%上昇しました。そして主要銀行において変動金利で借りている既契約分に関しては0.15%の引き上げが行われました。今回もおそらく4月以降分から0.25%引き上げが行われる可能性が高いものと思われます。

ただし、前回の時は新規契約分に関しての利上げを行う銀行もあればそうでない銀行もあり、対応が分かれました。今回は新規契約分も上げる銀行が多いと思いますが、融資契約を獲得したい銀行では据え置きの可能性もあることから、いずれにせよ注視しておきたいものです。

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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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