購入・保有・売却の各ステージにおける節税対策 | 不動産投資と納税の関係を考察
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購入・保有・売却の各ステージにおける節税対策 | 不動産投資と納税の関係を考察

今まで、本コラムを借りて、不動産投資の税制について論じてきた。毎回テーマを掲げて各論について述べてきたのだが、今回は、そのまとめという意味で、投資をされる方が興味を持つ節税について、物件の購入から順を追って各論を横断的に理解を進めてみたいと思う。

主体、ステージごとに考える不動産投資における節税

魅力的な不動産物件が目の前にあり、その投資意思決定をしたところをスタートに、購入・保有・売却のそれぞれのステージ毎に節税に繋がるかもしれないアイデアを考えてみる。

1.取引主体について考えてみる

取引主体とは、法人と個人のどちらで取得するのか。というポイントだ。

多くのHOW TO本では、法人での取得を推奨している。これは法人の方が税率が低いためで、税金を払った後の手残りが多くなることを理由に挙げている。

それは間違いではないのだが、ここで留意しなければならないのは、手残りが多くなったとしても、それは法人に内部留保として溜まっているに過ぎないという点だ。会社に溜まった利益をどのようにして個人に移転させるのか、個人にお金が届くまでの税負担をトータルに考えなければならない。

会社で投資をした方が税金が安いからと言って、喜んで会社内部で利益を留保していても、その利益を配当で個人に移転させたならば、そこでまた多額の税金が課されてしまうし、役員報酬を支払うことによって移転させたとしても、その役員報酬に対しても税金が課される。

まとめると、単純に会社と個人の税負担だけを考えて、選択をしてはならない。会社に溜まった利益をどのようにして個人に支払うのかまでを考えて、取引主体を考えなければならない。

場合によっては、会社の役員を配偶者や自身の相続人に就任してもらい、それ相応の会社業務を行ってもらうことで役員報酬を支払う等して、個人への資産移転を図ることが求められる。

また、会社に溜まった利益を最も低い税負担で個人に移転させる方法は、退職金として支給することだ。ただ、それを実行するには十数年もの長い期間を要するし、退職金として個人に移転できたとしても、今度はその個人が死んだときに相続税が発生する場合もあるので、そのことまでもケアしておく考える必要がある。

2.取得する会社を考えてみる

会社で不動産を取得すると決めた場合、その取得する会社は必ずしも自分の会社である必要は無い。相続税の負担までも考えた場合には、配偶者や子供などの相続人が株主となっている会社で取得するのも一考の余地がある。

その理由は、利益がたくさん得られる優良不動産を取得すると、会社に内部留保がどんどん溜まっていく。それはそれで嬉しいことだが、自身が株主となっている法人でその不動産を取得し、利益が一杯溜まった段階で相続を迎えると、相続税が発生してしまう。

そこで、相続人が株主となる会社で不動産を取得しておけば、相続税の負担を1回分パスすることが可能になる。優良な不動産物件を見つけた場合、相続人が株主になり、あえて新会社を設立する選択肢もある。

留意点としては、相続人が株主となっている会社で突然に不動産を取得しようにも、そこには取得資金が無いため、自らが取得資金を貸し付けたり、不動産担保ローンの設定等金融機関との擦り合せたりする必要な場合もある。

3.資産を取得する方法を考えてみる

土地と建物は同一の者が土地と建物を一体として取得するのが当たり前になっているが、「必ず同一の者が一体として取得しなければならない」という訳ではない。土地は個人が、建物は法人が取得するのも節税に繋がる可能性がある。

ただ、取得にあたって金融機関からの借り入れに頼る場合などは、権利関係の点から難しいだろう。これを実践するには、自己資金で取得する場合に限られているかもしれない。

建物を法人が取得して、土地を個人が取得すると、賃料収入を得るのは建物を持っている法人になる。ただ、法人は、個人から土地を借りて、その土地の上で不動産賃貸業を営んで収入を得ていることになるので、個人に土地の地代を支払わなければならない。そうすることで法人は賃料収入を個人に分散させることが出来る。

ただ、法人は他人の土地の上で不動産業を営んでいることになるので、借地権についてケアしておく必要がある。借地権の対価のやり取りをしないでいると借地権の認定課税を受けるおそれがあるため、それを回避する為に税務署に対して、あらかじめ「土地の無償返還に関する届出書」という届出書を提出しておく必要がある。

4.不動産を取得した後の資産分解について考えてみる

不動産物件は、取得金額の総額を土地と建物に振り分ける必要があるが、出来るだけ建物の比率を高めて減価償却費を多く計上できるようにしたい。

減価償却費とは不動産のうち、建物の取得に要した費用を税法に定める耐用年数に応じて費用計上していく仕組みのことである。減価償却費の大きなメリットは、キャッシュアウトの伴わない費用を計上できる点にある。減価償却費を計上することによって税金計算上多額の費用を計上することが出来、結果として節税に繋がる。

また、土地と建物の割り振りについては、売主である相手があっての話なので、いくら建物の比率を上げようにも限界があるし、税制上その振り分けに問題が無いのかも確認をしなければならない。

ただ、税制上問題にならない範囲で土地と建物に割り振り終わった後では、建物を更に建物附属設備や構築物に細分化する検討をしたい。一般的に建物よりも建物附属設備や構築物の方が耐用年数が短いので、減価償却費を計上できる余地が大きくなるためだ。

5.不動産事業を始めた後の節税方法について考えてみる

個人で不動産業を営んだ場合の所得税でも、法人で営んだ場合の法人税でも、納税額は所得金額によって決まり、所得は以下の算式により計算される。

(個人の所得計算)

所得=収入-必要経費

(法人の所得計算)

所得=益金-損金

つまり、所得とは収入(益金)から必要経費(損金)を差し引いたものなので、必要経費(損金)が多ければ多いほど所得を減らすことが出来る。

「法人の方が経費で落とし易いですよね?」との質問を多く受けるが、法人の不動産にまつわる所得計算上「損金」として認められるものは、個人事業主の不動産所得の計算上で、ほぼ必要経費として認められる。

だた、若干ではあるが、個人事業主では必要経費にならないが、法人の方では損金になるものがいくつか有る。その代表的な費用が以下のものだ。

これらの費用項目は、不動産事業とは直接関係がないものの、法人では事業用の費用として合法的に損金が認められている。こうした費用計上を想定している人は、法人での不動産投資の方が節税はし易い。

 ① 経営セーフティー共済
 ② 生命保険料
 ③ 自分へ役員報酬

更に、法人の場合は、利益追求が大前提なのでその目的のための費用であれば、不動産にまつわる経費ではなくても、損金として認められる。

具体的には、不動産業を営んでいる法人が他の事業を始めようとして飲食代、交通費、リサーチ費用などを使用した場合、それが利益追求のため費用であれば損金になる。残念ながら事業の開始に至らなかった場合でも、利益追求のために止む無く発生してしまった費用として損金として認められる可能性がある。

ただし、何でもかんでも「他の事業を開始ようと思って」費用処理をしていると、それは利益追求に反した脱税になってしまい、損金として認められないので留意が必要だ。

6.売却時の節税方法について考えてみる

不動産の売却時は、もはや出口のため、ここで悪あがきをしても出来る節税は殆ど無い。それに、不動産売却時は金額が大きい割に、直接的に生ずる費用は意外と少ないため、儲かった場合には、多額の税金が発生してしまう。では、どうしたら良いのだろうか?

考えられることとしては、もし、会社で不動産投資をしていたとしたならば、事業年度の変更はお勧めする。個人の場合は、必ず暦年単位(1月1日~12月31日)で所得計算をしなければならないが、法人の場合には、所得計算の期間は任意に設定できる。事業年度の変更は、経営判断なので脱税云々には当たらない。

事業年度末ギリギリになって不動産を売却して多額の利益が出てしまえば、対策のしようが無いが、売却直前に事業年度を変更してしまえば、そこから1年間を掛けて色々な節税対策が考えられる。

例えば、新規事業への投資も良いだろうし、若しくは、多額の利益が出たので、役員はお役御免とばかりに、役員を退任し役員退職金の支給を受ける。というのもアイデアの一つとなろう。

7.最後に

今まで、節税について論じてきたが、私は、お客様に対しては、比較的、納税を推奨している方だ。何故ならば、納税をした方が会社は大きくなり、会社の体力がつく。会計がそのような仕組みになっていて、税金を払った後ではないと、内部留保はたまらないようになっているからだ。

しかし、税金は嫌いだ。という人の方が圧倒的に多く、税金なんて払いたくない。1円でも税金を安くしたい。という方の気持ちもよ~く理解できる。
そのような税金を払いたくない人は、様々な節税商品に手を付ける。節税型の生命保険に加入したり、節税目的のオペレーティングリースを購入したりする。

私は、保障が必要ならば生命保険に加入するのは非常に良いことだと思うし、オペレーティングリースも投資商品として魅力を感じたのであれば、それに投資をすることは良いことだと思う。

ただ、節税を目的に、生命保険に加入したり、オペレーティングリースに投資をしたりするのには疑問を感じる。その理由は、これらの商品は、節税と言っても、課税の繰延に過ぎないからだ。いつかは税金を払わないといけなくなる。つまり、課税の繰延に過ぎないのに、これらの節税商品を購入することで資金が固定化してしまうことは何よりのデメリットと感じる。

節税をしなければならないほど、儲かっている会社は、おそらく商才のある方が経営をしているのだろう。そんな優秀な経営者が事業をしているのであれば、課税の繰延商品を購入して100の資金を固定化させるよりは、30の税金を払ってでも流動的な資金を70残しておき、その70を投資に回した方がよっぽど良いのに。と思う。

これは不動産にも同様のことが言える。私は本コラム内で、何度も申し上げてきているが、節税のために不動産を購入するのは間違いだ。不動産という魅力的な投資商品を欲し、その結果として節税に繋がるのであれば良いが、それが順序が逆になってはならない。と述べてきた。

不動産投資をした結果、失敗してしまったとしても、「節税できたからいいや」で終わってしまう経営者の方々をたくさんを見てきている。何度も申し上げているが、不動産有りきで投資の意思決定をしなければならない。そこに節税効果などの考えは入れない方が良い。

ただ、投資の意思決定がなされたならば、その後は、今回のテーマで述べたてきたように、節税をするためには、どのような投資手法が効果的なのかを全力で考えれば良い。つまり、節税をするにも考え方の順序を間違ってはならないと思っている。

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税理士 山本祐紀(やまもと ゆうき)

東京税理士会所属 山本祐紀税理士事務所 所長

日本通運株式会社を経て税理士資格を取得。アーサーアンダーセン税務事務所(現KPMG税理士法人)にて、企業組織再編成、タックスデューデリジェンスをはじめとした各種税務コンサルティングに従事。その後、住友生命保険相互会社において、新規事業のコンサルティング部隊立ち上げのサポートを行い、2007年に山本祐紀税理士事務所開設し、現在に至る。
現在は、不動産ファンドのSPCに係る税務会計業務を得意とするほか、東証一部企業から中小企業、芸能人・スポーツ選手まで幅広い層の顧問先と共に奮闘中。
・電子書籍「ちょっと行列のできる税務相談所」リリース
・「今すぐ取りかかりたい 最高の終活」共著

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