専門家コラム

【不動産の税金_10】失敗する相続対策

 相続税対策と不動産投資とは密接な関係があり、実際に、相続税対策のために不動産投資をされる方々もたくさんいる。
ただ、私は、相続税対策は、不動産投資の結果の副産物であって、順番としては相続税対策のための不動産投資ではなく、先ずは「不動産有りき」で考えるべきであると本コラム内で述べてきた。
 
 世の中には、良かれと思って相続税対策を実施したが、結果としては失敗してしまった例もある。今回は、不動産が絡んだ相続税対策の事例を成功例と失敗例を交えて挙げてみたいと思う。今回、紹介するケースは相続税対策として一般的に広く周知されている手法であるが、使い方を間違えると失敗もありえる。ということだ。ここでは、失敗した事例を反面事例として、今後の相続税対策に活かしてもらいたいと思う。
 

1.配偶者への居住用財産における贈与税の非課税

(制度)
 婚姻期間が20年以上の夫婦の間で、居住用不動産の贈与が行われた場合、基礎控除110万円と合わせて最高2,100万円まで控除(配偶者控除)できるという制度である。つまり、2100万円以下の居住用不動産であれば、無税で財産の移転が行える。
 
(成功例)
 相続開始前に財産移転を行うことで相続財産を減らすことが出来、相続税の節税が可能だ。
また、相続税には3年以内の贈与財産を相続財産に足し戻す。という規定があるが、配偶者に対する居住用資産の贈与は3年以内の贈与に加算する必要が無いため、夫の余命がわかって急な相続税対策が必要になったとき等に有用である。
 
 なお、この制度を利用しなくても、配偶者が居住用不動産を相続したときは、配偶者の税額軽減制度や、小規模宅地等の制度を使えば、相続税が発生しないような遺産分割をすることが可能だ。しかし、これらの制度を利用するためには相続税の申告をしなければならない。その手間や、税理士の相続税の申告報酬を考えれば、配偶者に居住用財産を贈与しておき、相続税の申告義務をなくしておくことも有用かもしれない。
 
(失敗例)
 本制度を利用して笑い話にもならないのが、相続税対策のために配偶者に居住用不動産を贈与したのに、自分よりも先に配偶者が亡くなるケースだ。
せっかく、登記費用等を負担して配偶者に登記移転したのにブーメランのように自分にその財産が戻ってきて再び相続財産になってしまう。と言うことも有り得る話だ。故に、配偶者が亡くなった場合のことも考えて、自分には戻らずに子供がその居住用不動産を相続できるような環境を考えた上で実行しなければならない。
 
 また、配偶者に贈与したときは仲睦まじい夫婦であっても、相続が開始するまで、ずっとそのような関係が続いているとは限らない。贈与した後に夫婦関係が破綻し離婚するケースも往々にしてある。「あぁ、あの時贈与しなければ良かった」と思っても、後悔先に立たずである。居住用不動産の贈与に限った話ではないが、奥さんに財産移転をしておきながら、後で後悔するのは、富裕層の相続税対策ではよくある話である。
 

2.相続時精算課税制度の利用

(制度)
 一般の贈与税は、贈与価額が多いほど、税率が上がる累進税率制度で1,000万円を超える部分は40%もの税率が課せられるが、相続時精算課税制度は、贈与財産の価額から2500万円の控除があり、それを越える部分に一律20%の贈与税を納めるという制度だ。ただ、これで終わりではなく、20%の率で支払った贈与税はあくまでも相続税の前納付という位置づけであり、この制度を利用して贈与を受けた財産は、相続税の申告時に、相続財産として足し戻して相続税を計算し直し、そこで算出された相続税から前納付した20%の贈与税を差し引くことになっている。
ここでポイントとなるのは、贈与をしたときの財産の価額で相続したものとして相続税を計算することにある。
 
(成功例)
 相続が開始する前に収益不動産を子供等の相続人に相続時精算課税制度を利用して移転させておけば、その後に得られる賃料収入は相続人の収入となる。従って、収益不動産本体の移転と合わせて、果実である賃料も財産移転が行えることが可能だ。
また、仮に相続時精算課税制度を利用した贈与時点では不動産の価額が1億円だったとして、その後、不動産の価格が上がって相続開始時に1.5億円になった場合、本制度を利用しておけば、相続財産に足し戻すのは1.5億円ではなく1億円で済む。つまり相続税を計算するときには1.5億円の価値になっているのに1億円に相当する相続税の負担で済むのだ。
 
(失敗例)
 不動産は常に価格が変動するものだ。成功事例は、不動産の価額が値上がりをしたケースだが、逆に、価額が下がるような場合には失敗となる。
例えば、不動産の価額が1億円のものを相続時精算課税制度を利用して贈与した後に、価格が下がってしまい相続開始時には5千万円になっているときであっても、相続税の計算は1億円の財産を相続したものとして相続税が計算されてしまうのだ。
贈与してから相続までは非常に長い期間があるだろう。場合によっては、不動産の価値が1,000万になる可能性だって、ゼロになる可能性だってあるのが、それでも1億円で計算されてしまうのだ。
 
 現預金などの時価が変わらないものや、その後財産の価額が確実に上がるようなものをこの制度を利用して贈与するのは良いが、贈与後に財産の価額が下がるようなものは、この制度を利用すべきではない。
 

3.借入によるアパート・マンションの建設

 
(制度)
 借入によりアパート・マンションを建設すると相続税対策になる。1億円を借りてアパート・マンションを建築すると、建築した建物の固定資産評価額はざっくりと7,000万円くらいに評価されるだろう。更に、賃貸事業に供すれば、貸家として30%の評価減ができるので、家屋の評価額は4900万円となる。
 
(成功例)
 1億円の借入をしてアパート・マンションを建築して賃貸事業を行うだけで、借入金が1億円、家屋が4900万円として評価されるため5100万円の財産の圧縮が可能になる。
実に借入額の半分の相続財産の圧縮が可能だ。更に、自前の空き地にこの建物を建築した場合には、その土地の評価も下がることになるため、既に土地をもて遊んでいる富裕層にとっては、土地の有効活用もでき、不動産投資もでき、更に、相続税対策に税金も安くなり、一石二鳥ならぬ一石三鳥の相続税対策にもある。
 
(失敗例)
 物件が新しいうちは入居者もいるが、それが古くなれば入居者はどんどん減ってくる可能性がある。相続開始時には、稼働率も落ちて収益不動産として回らない案件になってしまう可能性は十分に有り得る。また、相続開始時までに借入金が返済し終わっていたり、売却したら返済できたりするような場合では救いもあるが、賃料収入だけでは、銀行借り入れの返済が賄いきれないケースや、売却してもオーバーローンになってしまうようなケースなど、投資案件として破綻してしまう可能性もある。
 
 こうした事例から学ぶことは、アパート・マンションの建築による相続税対策は、不動産の目利きが最優先事項であり、相続税の圧縮は不動産投資の結果の副産物であり、相続税対策は二の次であることを肝に銘じてもらいたい。
 

4.タワーマンション投資による相続税対策

 
(制度)
 タワーマンションを利用した相続税対策も注目されている。建物の財産評価は時価ではなく固定資産税評価額による。一般的に固定資産税評価額は時価の7割程度と言われているが、タワーマンションの建物の固定資産税評価額と時価とのギャップは更に大きく、相続税対策としては非常に効果的といわれている。
 
(成功例)
 タワーマンションは、相続税の評価上、土地と建物として評価するが、土地は、そのマンションに住む居住者の占有面積割合分しか所有権が無いため、例え、一等地にあったとしても、実は土地の相続税評価額は非常に小さくなる。つまり、タワーマンションの評価額の殆どは建物の価額と考えても良い。結果、建物の固定資産税評価額と時価とのギャップが大きくなり、相続税対策として利用されている。
実際に国税庁が行った調査では、タワーマンションの時価と相続税評価額の差は約3倍程度と言われている。
例えば、1億5千万円の最上階の部屋を購入した場合において、それを相続税評価した時には5000万円程度というケースはざらにある。実に、タワーマンションを購入するだけで1億円もの相続財産の圧縮が図れるのだ。こうして、タワーマンションの相続税評価額と時価との乖離を利用した相続税対策は広く行われている。
 
(失敗例)
 タワーマンション投資は、相続税の節税効果が顕著なために、課税当局もその対策に目を光らせている。不動産の評価は、相続税の財産基本通達に従って評価することが基本ではあるが、その通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められるときは否認される可能性がある。
例えば、タワーマンションの取得に、節税以外の合理的な理由が全く見出せないような場合は否認される可能性がある。過去の事例を挙げれば、相続の開始1ヶ月前にタワーマンションを購入し、その後、利用しないまま相続が発生し、相続した後直ぐに売買活動を始めているようなケースは否認されたことがある。
故に、タワーマンションを購入する場合には、誰かが住むのか、若しくは、賃貸用の投資なのか説明できる合理性が必要になる。
 
 また、タワーマンションの節税では、不動産保有会社などを既に持っていて不動産投資に慣れた方に見られる失敗例がある。
例えば、会社を通じて不動産投資をしている方が、近々、相続が発生しそうだと考えて会社でタワーマンションを購入したときはタワーマンションの節税効果は享受できない。
これは、購入したタワーマンションの評価は、会社の株式の評価を通じて行われるが、相続開始前3年以内に取得した土地・建物については、相続開始時期における通常の市場価格(土地は時価、建物は減価償却後の簿価など)で評価することになっているためである。これを失念していたがために、タワーマンションによる資産圧縮が図れずに時価で評価せざるを得なかったケースにも触れたことがある。
 

5.まとめ

 世間一般的に知れ渡っている相続税対策では、メリットばかりが強調されているケースが多いが、一方でデメリットや失敗例があることも忘れてはならない。また、こうした対策は、不動産や税に精通していないと、思わぬ落とし穴がある恐れもあるため、税理士等の専門化とのリレーションが重要だ。
 
 また、相続税対策は、自分が死ぬときを想定して行うため、いつ発生するかわからず、長期間に亘ることも有り得るため、後悔しないような間違いの無い対策を練ってもらいたい。
 
 
 


税理士 山本祐紀(やまもと ゆうき)
 東京税理士会所属 山本祐紀税理士事務所 所長
 
日本通運株式会社を経て税理士資格を取得。アーサーアンダーセン税務事務所(現KPMG税理士法人)にて、企業組織再編成、タックスデューデリジェンスをはじめとした各種税務コンサルティングに従事。その後、住友生命保険相互会社において、新規事業のコンサルティング部隊立ち上げのサポートを行い、2007年に山本祐紀税理士事務所開設し、現在に至る。
現在は、不動産ファンドのSPCに係る税務会計業務を得意とするほか、東証一部企業から中小企業、芸能人・スポーツ選手まで幅広い層の顧問先と共に奮闘中。
 
・電子書籍「ちょっと行列のできる税務相談所」リリース
・「今すぐ取りかかりたい 最高の終活」共著

 


 
 

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