2019年02月21日(最終更新:2023年06月06日)
私は、職業柄、不動産投資家の方々とお話をする機会が多々ある。多くの方は、投資理論を持ち、「何故、その物件に投資をしたのか」投資根拠を持っている。それを聞いて、私の方も、「なるほど!」と納得させられる事も多い。しかし、一方で、残念ながら失敗をしている方がいるのも事実。そうした方の特徴は、自らの投資理論ではなく、営業員の受け売りで、甘いセールストークに誘われてしまった、というケースが多い。
不動産も投資の世界、儲かった人の裏には、タイミングの違いはあれど、必ず損をしている人がいる。これらの方々の違いは一体何なのだろうか?
私は、不動産投資をする上で、もっとも大切な要素は、「不動産に対する目利き」だと思っている。そして、目利きの次に必要な要素が会計や税金の知識ではないだろうか。会計の知識があることで、物件の利回りや、キャッシュフローのイメージが即座につかめる。また、不動産投資と税金とは切っても切れない関係があり、これらの知識を持っているだけで、投資結果に大きな違いを生むことになる。
先ず、理解しておかなければならないのは、不動産投資では、購入したマンションやアパート、ビルなどを他の人に貸し出すことで毎月の賃料収入を得るインカムゲインと、その不動産を売却して利益を得るキャピタルゲインから成る。
ついつい、「利回り○%」というインカムゲインだけに目を奪われて不動産投資を始めてしまうケースが多いが、本来は、この投資期間中のインカムゲインに投資出口のキャピタルゲインまでも加えて、その投資物件をトータルに考えなければならない。
そして、このインカムゲインやキャピタルゲインにも当然に税金が課される。ここでやっかいなのが、投資主体によって、インカムゲインとキャピタルゲインに課せられる税負担が変わってくるのだ。そうした知識を持ち合わせていないと、税金を控除したあとの最終的な手残りの金額は当然に変わってきてしまう。
ここで言う投資主体とは、個人か、法人のどちらか。ということである。
実際に、不動産投資を個人ですべきか、法人ですべきか、質問される機会は非常に多い。その答えは、その方の所得状況や、家族構成、不動産投資の規模などによって変わるため、どちらが得か一概に判断できるものではないが、その選択は、税負担のコストを大きく左右する。
不動産投資では、個人であっても、法人であっても、入ってくる収入も費用もほぼ同じのため、その不動産物件から生ずる利益はどちらもほぼ同じになるが、その利益に対する税金は、個人と法人とでは大きく変わってくるのだ。では、次に個人と法人で投資した場合の特徴について見てみよう。
昨今の税制の傾向から見れば、間違いなく、個人の税負担は増税傾向にあり、法人のそれは減税傾向にある。
また、何よりも大きな特徴は、個人の場合には、利益に対して、ダイレクトに課税されてしまう点が挙げられる。個人で不動産投資をして儲けがどんどん膨らむと、課税所得が大きくなって、その分税率が上がってしまい、結果として負担する税金も増えてしまう。個人の場合は、所得が高ければ高いほど、税率が上がる超過累進制度が採用されており最高税率は55%だ。
一方、法人の場合には、不動産から生じた利益に対して、ワンクッションを加えて、利益を調整する余地が残されている。更に、法人の実効税率は30%台である。次項においては、その利益を調整できる手法を挙げてみる。
税金を低く抑える大原則は、所得の分散化である。
法人を設立して、家族を役員にして、賃料収入から役員報酬を支払い、所得の分散を図る。そうすることで、会社、並びに一人当たりの課税所得が小さくなり、税率が下がることで税金が低くなり、結果としてトータルの手残りの資産が増える。
ただし、安易に役員報酬を払えば良いと言うわけではなく、その役員は不動産の資金管理をしたり、帳簿の整理をしたりして、報酬に見合った仕事をしなければならない点には注意したい。
更に、その役員報酬を受け取った役員は、個人的に小規模企業共済という共済制度に加入することをお勧めする。これは、中小企業経営者の退職金制度として、社会政策的に設けられている制度で、月当たり最大で70,000円の掛金を掛けられ、この掛金は個人の所得税の計算上、所得控除が受けられる。掛金は、将来に退職金として受給することが可能だ。これは、役員報酬を受け取った個人の税負担の軽減に繋がり、これも所得分散の一つと言える。
また、不動産を売却をして多額のキャピタルゲインが発生した時などは、その役員の仕事もお役御免ということで、その役員を退職させ退職金を支払うことも良く行われている。その退職金は法人の損金となるし、受け取った個人は退職所得となり、他の所得よりも税負担が低くなるように優遇されている。その点からもトータルの税負担を軽くすることが可能になる。
その他、法人にのみ認められている経費も多くある。その最たる例が保険料だ。個人の生命保険料控除は年間で最大12万円までしか認められていないが、法人では、こうした制限がなく、支払った保険料の全額、又は半額が経費に計上できる保険商品もある。
ただ、保険よりも先ず、お勧めしたいのは、「経営セーフティー共済」である。これは、中小企業が連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐために社会政策的に設けられた制度で、この掛金を年額最大240万円(月当たり最低5,000円~20万円)掛けられ(累計掛金は800万円まで)、掛金を経費に計上することが可能だ。掛金は、最低でも40ヶ月間かけ続ければ、元本割れすることなく、全額返還を受けることが可能だ。つまり、40ヶ月間、外部預金をしているイメージで、それが経費となり、節税が計れるのだ。ただ、解約して返金を受けた時には課税されるので注意が必要だが、資金需要に迫られない限りは、外部預金と思って契約を継続していれば良いだけである。
個人では、賃料収入で得た不動産所得と、不動産の売却で得た譲渡所得は、異なる種類の所得として、別々に課税されるため、どちらか一方で損失が生じても、他方の所得と損益通算することはできない。
一方、法人の場合は、所得の区分をすることなく、全体の儲けを合算して課税されるため、黒字部門と赤字部門とを相殺することで、全体の課税所得を減らすことが可能である。
不動産を売却したときのキャピタルゲインにも当然に税金は課される。
ただ、個人の場合には、その不動産を保有していた期間によって、税率が異なる。所有期間がその譲渡の年の1月1日時点で5年以内の場合には、税率が約39%、同5年を超える場合には、税率は約20%になる。法人の場合は保有期間の区分がなく、約30%程度の実効税率である。そのため、5年内の譲渡を考えているなら、個人よりも法人の方が得、5年を超えて長期に保有するつもりなら個人のほうが有利と言える。
このように投資主体を法人にすると、さまざまな経営上の工夫により、節税を図ることが可能になる。では、不動産投資は法人で行う方が得なのだろうか?
当然に法人で行うことのデメリットもある。例えば、法人を設立するにも、維持するにも、コストがかかる。乱暴な見積もりかもしれないが、法人の設立費用だけで30万円。更に、会社の維持コスト(赤字でも納税しなければならない地方税の均等割や決算申告をする税理士への報酬など)だけでも年間40万円程度は最低限かかるだろう。こうした費用を負担してもなお、法人を投資主体とした方が良いのか、投資をする際には、メリット、デメリットを念頭に入れて綿密な投資のシミュレーションが求められる。
私が考える投資は、その特定の個人の手残りの最大化のみならず、家族や、相続人に資産が移転されることまでを考え、最終的な資産の最大化を図ることが重要と思っている。例えば、ある特定の個人が不動産投資をしたとして、その個人に残された留保利益は少なかったとしても、その個人が主催する会社、または、その個人の家族や、相続人において利益が留保されてトータルの資産が最大化されているのであれば、投資としては成功していると言えるのではないだろうか。
個別案件の不動産投資は、短期であっても長期であっても良い。ただ、投資活動は、長期的なスパンに立ち、どうしたら資産が最大化になるのか考えることが重要である。そのためには会計や税務の知識は大きな武器になる。仮に残念ながらその知識を持ち合わせていなかったとしても、その知識を補完してくれるようなパートナーを是非とも見つけて不動産投資をしてもらいたいと思う。
税理士 山本祐紀(やまもと ゆうき)
東京税理士会所属 山本祐紀税理士事務所 所長
日本通運株式会社を経て税理士資格を取得。アーサーアンダーセン税務事務所(現KPMG税理士法人)にて、企業組織再編成、タックスデューデリジェンスをはじめとした各種税務コンサルティングに従事。その後、住友生命保険相互会社において、新規事業のコンサルティング部隊立ち上げのサポートを行い、2007年に山本祐紀税理士事務所開設し、現在に至る。
現在は、不動産ファンドのSPCに係る税務会計業務を得意とするほか、東証一部企業から中小企業、芸能人・スポーツ選手まで幅広い層の顧問先と共に奮闘中。
・電子書籍「ちょっと行列のできる税務相談所」リリース
・「今すぐ取りかかりたい 最高の終活」共著