新型コロナウイルスの影響が出始めて以降初 2021年公示地価を読み解く
専門家コラム

新型コロナウイルスの影響が出始めて以降初 2021年公示地価を読み解く

注目を集めた2021年の公示地価

3月23日、2021年分の公示地価が国土交通省より発表されました。

公示地価は、地価公示法に基づき毎年3月20日ごろに発表されます。公示地価の価格時点は1月1日となっており、つまり、「1月1日時点の地価」を2人以上の不動産鑑定士が算定しその結果が3月に発表されます。そのため今年分は、「新型コロナウイルスの影響が出始めて以降初の公示地価」ということになり、大きな注目を集めました。

また、新型コロナウイルスの影響が多少見られた、都道府県地価(7月1日時点の地価を9月に発表)ですが、この時点からどれくらい回復したのか、あるいはさらに悪化したのか、にも注目が集まりました。

公示地価は、「一般の土地の取引価格に対しての指標」として、また「公共事業用地の取得価格算定、収用などの際の規準」として活用されます。大都市圏での実際の取引価格は、特に市況が上向きの時は、公示地価(㎡単価)よりも、いくぶん高くなるのが一般的です。

2021年公示地価、全国の状況

はじめに、全国の公示地価を俯瞰しておきます。

2021年1月1日時点の公示地価は、全用途(住宅・商業・工業)の全国平均では前年比0.5%のマイナスとなり、昨年までの5年連続のプラスから一転、6年ぶりにマイナスとなりました。新型コロナウイルスの影響は大きく、三大都市圏(東京圏、名古屋圏、大阪圏)はいずれもマイナス、地方圏全体でもマイナスとなりました。

全国の標準地(=調査地)25,693地点のうち14,959地点(58%)が下落、横ばいが5,771地点(22%)で、上昇地点は4,963地点で19%と2割に満たないという結果になりました。

全国の住宅地はマイナス0.4%(前年はプラス0.8%)、商業地はマイナス0.8%(前年はプラス3.1%)とともにマイナスですが、商業地の落ち込みの方が住宅地に比べ圧倒的に大きくなっています。

2020年の後半は回復のキザシも

毎年9月に発表される都道府県地価と同一地点(東京都では209地点あります)に限った公示地価では、東京都(住宅地)は年間ではマイナス0.8%でした。

これを前後半に分けると、前半はマイナス0.8%(1月1日~7月1日までの変動率)でしたが、後半は±0%(7月1日~21年1月1日までの変動率)となり、前半のマイナス分を後半でカバーしきれなかったという状況です。

これを区部に限れば、年間ではマイナス0.6%、前半はマイナス0.6%(同)で、後半は±0%(同)となっており、区部の方が前半の落ち込みが少なくなっていますが、同様に後半の盛り返しが及ばなかったと言えるでしょう。

東京圏の状況

公示地価データにおいて国土交通省資料では、3大都市圏を、「東京圏」「名古屋圏」「大阪圏」に分けています。東京圏では全用途でマイナス0.5%(前年はプラス2.3%)、住宅地はマイナス0.5%(前年はプラス1.4%)、商業地では、マイナス1.0%(前年はプラス5.2%)となりました。

特徴的だったのは、商業地地価において東京23区全てで下落になったことです。とくにインバウンド観光が多かった台東区などでの下落幅の大きさが目立ちました。銀座・浅草・新宿歌舞伎町などの商業地では2ケタのマイナスとなっており、新型コロナウイルスの影響が大きく出た格好となりました。商業地は全体的にマイナスながらも、飲食・小売りなど主体のエリアのマイナスが大きく、丸の内や大手町のようなオフィスエリアはそれほど大きなマイナスではありませんでした。「土地の使われ方」により差が出たということになります。

一方、住宅地では、港区と目黒区を除く東京23区の大半で、各区わずかですがマイナスとなりました。細かく見ると、都心一等地で希少性の高いエリアや利便性の高いエリアなどではプラスが続いています。

東京中心部の状況

ワンルームマンションが多く建つ東京都区部やその周辺地域に目をやると、公示地価(住宅地)で前年比プラスとなっているエリアは、都区部では港区と目黒区の2つ。その他は、ほんのわずかですがマイナスとなっています。そのなかでも大きなマイナスは練馬区のマイナス0.9%でした。

周辺部では、稲城市がプラス0.7%でしたが、それ以外にマイナスではなかったのは、±ゼロの武蔵野市、府中市、調布市のみとなりました。

まとめ

21年の公示地価だけをみると、新型コロナウイルスの影響が色濃く出て、回復基調にありますが、20年1月と21年1月という年単位で比較するとマイナスとなるところが多くなりました。

しかし、実際の実需用マンションの売れ行き、投資用のマンション(区分、1棟)の売れ行きともに20年21年とも好調が続いています。キャップレートの推移を見ても、レジデンス投資における期待利回りに大きな変化は見られません。すでに城南・城東エリアでは4%を切るかどうかという状況にあります。

このように、20年~21年前半の住宅系不動産の市況は、1回目の緊急事態宣言中に大きなショックがあり落ち込んだが、その回復は早かったと言えるでしょう。

そして、金融緩和政策が続く限りは、21年後半も今のような安定した状況が続くものと思われます。

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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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