専門家コラム

【不動産の税金_7】不動産事業者における税務調査のポイント

【不動産の税金_7】不動産事業者における税務調査のポイント

今や、ネットワーク上には税務情報が溢れ返っている。納税者の方々はこうした税務情報を参考にして、会計処理や、税務手続きを行っているのだろう。
私自身も、こうしたコラムを記述する機会を頂くことで、納税者の方々の参考に少しでも資すれば有難い。という思いを持って記述している。
 
では、何故、納税者の方々は、こうした情報を調べてまで、会計処理、税務手続きを行っているのだろうか。もちろん、「適正な申告納税を行うため」という目的があってのこととは思うが、「税務調査において要らぬ指摘を受けないようにするため」という思いもあるのではないだろうか。
 
今回は、今までとは視点を変えて、不動産事業を営む方々に税務調査が入った場合、どのようなことに重きを置いて調べられるのか。そして、「指摘を受けやすいポイント」という点から論じてみたいと思う。
 

1.税務調査について

おそらく、税務調査の経験をしたことが無い人の方が圧倒的に多いのではないだろうか。
映画「マルサの女」が有名になったこともあって、一般の方は、通常の税務調査と査察の違いがわからず、「税務調査が入る」=「令状やダンボールを持って強制捜査が入る」=「最悪、捕まってしまうかも」と大袈裟に考えてしまう方が多いのではないだろうか。
 
ただし、これは、あくまでも査察が行う強制捜査のことであり、査察調査は、国税犯則取締法に基づく「強制」的な調査であり、臨検、捜索、差押等の権限があり、悪質な脱税を摘発することが目的とされているため、国税側もある程度の悪事の証拠を掴んでから捜査に乗り出す。
故に、悪事に身に覚えの無い一般の納税者は、心配はせずに、このような強制捜査は、自分とは縁が無いものだと思って安心して頂いて構わない。
 
一般の納税者が受ける通常の税務調査は、税務署が行う所得税や法人税等に規定されている質問検査権により行う「任意」の調査で、通常は必ず、納税者本人か、顧問税理士に事前連絡がある。
ただ、「任意」の調査といえども、税務調査官は、質問検査権という権利を盾に調査への協力を依頼してくる。万が一、虚偽答弁を行ったり正当な理由なく税務調査官の要求を拒んだりした場合には罰則があるので、実態としては、拒否できるものでもなく受忍義務があるといえる。調査規模は、不動産の事業規模にも拠るが1日~3日程度を覚悟しておけば良い。
 
因みに、強制捜査である査察調査と、一般の調査では、実施されている件数から見ても明らかな違いがある。査察調査は年間でも200件程度であるのに対し、法人と個人を合わせた一般の税務調査は年間16万件程度も行われている。それくらいに、一般の皆さんがイメージされる怖い強制捜査の締める割合は低いものである。
 
なお、私自身、何度と無く税務調査に立ち会ってきたし、税務調査官とも対峙してきたが、我々、税務のプロである税理士にとっても税務調査は気が重いものである。そんな税務調査を経験の少ない一般の方が受けることとなったら、非常に負担が大きいものと思われる。それ故に、来るべき税務調査に備え、どのようなことを調べられるのか事前に学習しておくのは非常に意味のあることではないだろうか。
 

2.税務調査のポイント

税務調査は、所得計算が正しく行われているのかどうかを確認するものなので、「収入が漏れなく申告されているか」「必要経費の中に関係の無いものが含まれていないか」といったスコープで調査が進められる。
 
では、以下に不動産事業の場合の税務調査の論点を収入と経費別に、代表的な事項についてポイントを挙げてみたい。
 

①収入について

不動産事業に係る収入については、以下の視点で確認をされる。

イ)申告から除外している賃料収入は無いか。
ロ)未収賃料について
ハ)供託家賃について
ニ)フリーレント時期の収入が計上されているか。
ホ)礼金などが正しく収入計上されているか。
ヘ)敷金償却が正しく収入計上されているか。

 

イ)賃料収入の除外について

アパート、マンション経営であれば賃貸の稼動状況の確認と、収入が漏れなく計上されているか、の確認が行われる。
貸主が個人で、借主が法人であれば、税務署は、借主である法人から支払調書を入手しているので、その支払調書を元に借主が支払った支払賃借料と、貸主が申告している賃料が一致しているのか確認が行われる。
家賃の一部が別口座に入金となっていて、家賃収入が除外されていないか、といったことも確認される。例えば、法人の場合には、代表者個人の口座に売上として計上すべきものが入金になっていて、法人で売上が除外になっていないか、などの確認がされることもある。レントロール上の収入と、申告の収入計上額とが一致していることは必須である。
 

ロ)未収賃料について

滞納テナントがいる場合、こうした未収賃料も売上に計上しなければならない。また、中には滞納テナントに対して遅延損害金を請求しているケースもあり、これも売上の対象だ。
オーナーの立場からすれば、家賃を滞納されている上に、売上を計上して税金まで払わされては、ダブルパンチのダメージだ、と考える方もいらっしゃるが、税務とはそういうものである。
こうした請求分が返ってこないことが明らかになったタイミングで貸倒損失として費用計上できるようになっていて、請求している段階では、未収であっても収益としなければならない。
 

ハ)供託家賃について

賃貸借契約更新の際に賃借人と新賃料との折り合いが付かず、調停になる場合がある。この時期は、賃料が確定していないため、賃料収入に計上しなくても良いと考える向きがあるが、調停があった場合には、通常、賃借人は旧賃料の額を供託する。この供託された金額は、不動産収入として計上すべきこととなる。そして、その後に和解や判決があった場合には、そのタイミングで増加した新賃料と旧賃料の増差額が申告対象となるのだ。
 

ニ)フリーレント期間の収入が計上されているか

借主の初期負担を少しでも和らげてテナントを呼び込もうとして、フリーレントを付与するケースがある。フリーレント期間中は、賃料収入は入ってこないため、売上計上しないことが多いが、「契約が中途解約不能」もしくは、「中途解約時にはフリーレント相当の家賃を違約金として支払わなければならない」などの内容が契約書に記載されていると、フリーレント期間中も売上を計上しなければいけない可能性がある。これは契約書を読み解かないと判断できない。フリーレントがあった場合も要注意だ。
 

ホ)礼金などの収入が計上されているか

賃貸借契約開始時の敷金や、礼金などは、賃料口座と分けて別口座で管理しているケースがある。敷金は預り金に過ぎないので、自身の賃料口座と混同しないように分けて管理しておこうという趣旨によると思うが、その時に入金された礼金を売上に計上し忘れているケースがある。礼金は返却を要しないので、収受した時点で売上計上をしなければならない。
 

ヘ)敷金償却、原状回復工事収入について

敷金の償却については、例えば、「5年内に契約が解除された場合には、月額賃料2ヶ月相当を償却」や、「賃貸借契約が解約された場合には、賃料1ヶ月分償却」など、契約に拠ってさまざまな内容があるため、契約書をちゃんと読み解き、返還を要しないことが判明した段階で収益計上を失念しないようにしたい。
また、原状回復工事の収益計上も忘れがちだ。敷金の返還処理を精算書に従ってちゃんと処理していれば収益計上されるはずなのだが、敷金が原状回復工事と相殺された場合などで、お金の動きが無かった場合には、失念してしまう可能性もあるので、この点も注意したい。
 

③必要経費について
イ)資本的支出とすべきものを修繕費としていないか。
ロ)減価償却費の計算は正しく行われているか。
ハ)家事費などプライベートな経費が含まれていないか。
ニ)青色事業専従者給与は適正か。

 

イ)資本的支出とすべきものを修繕費としていないか。

修繕費の請求書や見積書、実際の工事状況を確認して、修繕費が妥当なのかのチェックが行われる。
例えば、高額となる外壁工事などは判断が悩ましいところだ。外壁工事でも、修繕維持を目的として行われるのであれば、基本的には修繕費となるが、建物の耐用年数を長くするために、外壁塗装材を変更した場合などは、その目的が建物の資産価値を高めるものとしてみなされて資本的支出になる。
 

ロ)減価償却費の計算は正しく行われているか。

これは、物件取得時の土地と建物の価格割合が正しく処理されているかに始まり、減価償却費の計算にあたり使用している耐用年数が適正なのかも税務調査でチェックされる可能性が高い。ただ、私の経験則上、きちんと説明できるようにしておけば(ちゃんと理論をもって処理をしておけば)否認される可能性は少ないと思われる。
 

ハ)家事費などプライベートな経費が含まれていないか。

不動産事業とは関係ないと思われがちな、交際費や、旅費交通費、福利厚生費などは注意が必要といえる。因みに、こうした経費を頭ごなしに一切認めない、という訳では無い。金額や、取引数量の程度上の問題でもあるが、少なくとも、指摘されたときに反証できるように、誰と何の目的で使ったのかの活動記録を、記憶が薄れないうちに残しておくべきと思われる。
仮に、こうした経費が遊行費として否認を受けた場合には、法人の場合には、法人税が増える他、役員賞与として取り扱われて個人の所得税の負担も増えてしまうので注意が必要だ。
 

ニ)青色事業専従者給与は適正か。

こちらは個人所得税の場合の論点になるが、青色事業専従者に支払った給与が否認される可能性も押さえておきたい。
 
不動産の清掃や、管理などのPM/BM業務を不動産管理会社に委託して不動産事業を営んでいる個人が、配偶者に対して、青色事業専従者として給与を支払っている場合、この配偶者への青色事業専従者給与は否認される可能性が高いのではないだろうか。
 
PM/BM業務を外注している前提で、配偶者がそれ以外で専従的に行っている業務は何なのか、と考えたときに、それは認め難い情況にあると思われる。もし、配偶者の青色事業専従者給与を算入するのであれば、もっと不動産事業に対する関わりを明示できるようにしておくべきと思われる。
 

3.まとめ

税務調査があったとしても、変に反発して強がってみたり、逆に怖気づいておどおどしたりする必要も無い。税務調査は決して気持ちの良いものではないが、自然体でビジネスとして応対すればよいだけのことである。
 
結局、日々の処理、賃借人の入れ替わり時の契約書の精査、読み解きをしっかりと行い、然るべき会計・税務処理さえしていれば、税務調査は何ら怖いものではない。
全ての取引について説明が行えれば良いのだ。税務調査が行われたら、必ず追徴税額が取られるというものでもない。追徴が無く、指導だけで終わったり、指摘事項が無く是認となったりするケースもある。
 
 
 


税理士 山本祐紀(やまもと ゆうき)
 東京税理士会所属 山本祐紀税理士事務所 所長
 
日本通運株式会社を経て税理士資格を取得。アーサーアンダーセン税務事務所(現KPMG税理士法人)にて、企業組織再編成、タックスデューデリジェンスをはじめとした各種税務コンサルティングに従事。その後、住友生命保険相互会社において、新規事業のコンサルティング部隊立ち上げのサポートを行い、2007年に山本祐紀税理士事務所開設し、現在に至る。
現在は、不動産ファンドのSPCに係る税務会計業務を得意とするほか、東証一部企業から中小企業、芸能人・スポーツ選手まで幅広い層の顧問先と共に奮闘中。
 
・電子書籍「ちょっと行列のできる税務相談所」リリース
・「今すぐ取りかかりたい 最高の終活」共著

 


 
 

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