2019年07月19日(最終更新:2023年06月07日)
前回(不動産売却時の税金について解説 (1)消費税について)に引き続き、売却時の税務的問題や留意点についてだが、今回は計上経費について、注意したいポイントなどを論じていく。
また、1棟収益不動産を所有されている方の中には、法人化されている方も多いと考えられるので、後半では、法人の場合での注意点についても触れて行きたいと思う。
不動産の売買時の直接的な費用として認められるのは、以下の費用程度だろうか。
不動産取引は金額が大きい割りに、直接的に生ずる費用は意外と少ない。故に、儲かった場合には、多額の利益が発生する。(逆に、多額の損失になることも多々あるが・・・)。
多額の利益が発生した場合には、負担する税金も大きくなってしまうため、納税者は少しでも税金を減らしたくなるようだ。そこで計上してはいけない経費を所得計算に算入してしまうケースが散見され税務上問題になる場合が多々ある。
国税庁では、毎年、査察案件で告発されたもののうち、多かった業種を公表しているが、必ずと言っていいほど、不動産業者は上位に入っている。
では、そのやってはいけない手法をいくつかみてみよう。
その業務委託費の実態が無かったり、または実態はあっても業務内容に比べて不相応に高額な業務委託費を支払ったりしている場合がある。
因みに不動産取引で業務委託費が認められないという訳ではないが、何の業務委託なのか。その内容は必ず求められるし、当然に、報酬が業務委託の作業量に見合ったものなのか報酬の妥当性も求められる。また何故その会社に業務を発注したのかという理由もなければならない。
赤字会社に対して低廉で一旦譲渡し、その赤字会社から真正な購入者に譲渡して、結果、赤字の会社で多額の利益を出す。というケースがある。
そもそも、ここで低廉で譲渡するということが問題なのだが、何故その赤字会社に譲渡したのか、何故、赤字会社を介して譲渡しなければならなかったのか理由も必要だ。
情報料を経費として計上し利益を圧縮する手法だ。情報に対価の支払いがあっても決しておかしくは無い。情報とは無形の資産のため、本当にその者が情報を持っていたということも示せないといけない。また、支払う情報料がその情報に見合った対価なのかも考えなければならない。
本当にその情報がなければ、その不動産ディールが成立しなかった。というのであれば相応の情報料でも認められるかもしれないが、仲介業者の域を脱しない程度の情報料であれば、あくまでも私見ではあるが、情報料として許容できる金額はせいぜい売買金額の3%程度ではないのだろうか。
それは仲介手数料の3%であることに通ずる。宅地建物取引業法上様々な制約を受け、義務も生じる仲介業者が3%であるのに、仲介程度の情報提供者がそれ以上の報酬というのはいささか高いように思える。
不動産取引などによって多額の利益が発生した場合にはどうしたら良いのか。そのアドバイスに過度に期待された方には申し訳ないが、税理士として多くの納税者と接してきた身、税務の専門家としては次のように考えている。
税金は高い高いと言っても、儲かった利益の全部を持っていかれる訳ではない。法人であれば、利益に対する税金はせいぜい35%程度だ。つまり儲かった利益の65%は残る。
また、会社の基礎体力と言われる内部留保は必ず税金を払った後でなければ増えない。つまり、会社の基礎体力を養うには税金を払った後でなければ増えない仕組みになっているのだ。
私は、「会社の基礎体力をつけたければ、税金を払え」とアドバイスしている。今までの経験則上、税金を払っている会社の方が必ず強く、いざとなったときの対応力が強いと思っている。
多額の利益が生じて一時の税金を惜しみ様々な経費を使ってしまう会社は、せっかく儲かった利益を結局水物のように流出させてしまっているのだ。故に、もし不動産の売却によって多額の利益が生じた場合には、一時の税負担が惜しくとも、中長期的な視野に立ち会社の基礎体力を養うチャンスと思ってもらいたい。
税理士 山本祐紀(やまもと ゆうき)
東京税理士会所属 山本祐紀税理士事務所 所長
日本通運株式会社を経て税理士資格を取得。アーサーアンダーセン税務事務所(現KPMG税理士法人)にて、企業組織再編成、タックスデューデリジェンスをはじめとした各種税務コンサルティングに従事。その後、住友生命保険相互会社において、新規事業のコンサルティング部隊立ち上げのサポートを行い、2007年に山本祐紀税理士事務所開設し、現在に至る。
現在は、不動産ファンドのSPCに係る税務会計業務を得意とするほか、東証一部企業から中小企業、芸能人・スポーツ選手まで幅広い層の顧問先と共に奮闘中。
・電子書籍「ちょっと行列のできる税務相談所」リリース
・「今すぐ取りかかりたい 最高の終活」共著