【不動産の税金 第6回】消費税改正が不動産取引に及ぼす影響(前編) 消費税の益税スキーム具体例
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【不動産の税金 第6回】消費税改正が不動産取引に及ぼす影響(前編) 消費税の益税スキーム具体例

消費税改正が不動産取引に及ぼす影響を考察

消費税の増税がいよいよ今年の10月に迫ってきた。今回は、消費税の改正が不動産取引に及ぼす影響について記述してみようと思う。

さて、不動産業界においての消費税増税の話題と言えば、2019年10月1日以降は、消費税率が10%に上がるが、一定の要件を満たせば消費税率8%を適用できる取引(「経過措置取引」)があり、「経過措置」が適用できるか否かの問題について論じられていることが多かった。

私がお伝えしたいのは、「経過措置の適用の有無よりももっと大きな影響があるのではないか」と考えている税制改正の一つについて触れてみたいと思うが、その前にこれまで行われていた「益税のスキーム」についてご紹介していこうと思う。

1.消費税の益税スキーム

一昔前であれば、消費税の特異な制度を利用して、消費税の納税義務者(課税事業者)となって物件を取得し、建物に係る消費税の還付を受け、売却のときは消費税の免税事業者となって消費税を納めずに自分の懐に入れる。又は、売却時には簡易課税事業者となって預かった消費税の半分しか納税しない。というスキームが横行していた。

こんな書き方をすると、悪い人たちが悪巧みをして脱税していたように感じてしまうが、上場会社などの立派な不動産事業者もこうしたスキームを念頭に不動産投資をし、合法的に取引が行われておいた。

2.益税を生む簡単な具体例

益税が生まれる具体的な事例を簡単に挙げると以下の通りだ。(こうしたスキームが頻繁に利用されていたのは消費税率5%の時代が多かったので、5%にて事例を挙げてみる)

  • 税抜10億円のレジデンス用の建物を取得し、10億5千万円を売主に支払う。
  • 取得時に若干の課税売上を発生させ、支払った10億5千万円のうち消費税5千万円の還付を受ける。
  • 数年後に消費税の免税事業者となり、この建物を税抜10億円。(税込10億5千万円)で売却をする。(預かった5千万円は免税事業者のために納めなくても良い)

結果、取得時は10億円のキャッシュアウトで、売却時は10億5千万円のキャッシュインとなり、差引5千万円の益税となる。

本体価格は10億円で一切変わっていないのに、消費税のポジションを変更するだけで5千万円が儲かったのだ。これを益税といい、中には、物件価値は上がらなくてもいいから、消費税の益税だけ享受できれば良い。と考えている投資家もいたくらいだ。

ただ、ここ数年間、課税当局はこうした益税が発生するのを防ぐために税制改正を行い、納税者はその改正をかいくぐるようにして益税が取れるようなスキームを考え、イタチごっこのように税制改正が繰り返されてきた。そのお陰で、今では益税を享受できるようなスキームは難しくなってきている。

その結果、課税当局は、益税スキームを封じ込めることに成功はしたが、何らポリシーを持たないまま税制改正を繰り返してしまったために、継ぎはぎだらけの税制になってしまい、消費税の納税義務判定をするだけなのに、非常にごちゃごちゃした制度になってしまった。

こうした消費税の改正の歴史を経て、今回は大改正と言える納税義務に関しては抜本的な税制改正が入った。

後編(【不動産の税金 6】消費税改正が不動産取引に及ぼす影響(後編) インボイス方式についての考察)では、この税制改正についてみていこうと思う。

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税理士 山本祐紀(やまもと ゆうき)

東京税理士会所属 山本祐紀税理士事務所 所長

日本通運株式会社を経て税理士資格を取得。アーサーアンダーセン税務事務所(現KPMG税理士法人)にて、企業組織再編成、タックスデューデリジェンスをはじめとした各種税務コンサルティングに従事。その後、住友生命保険相互会社において、新規事業のコンサルティング部隊立ち上げのサポートを行い、2007年に山本祐紀税理士事務所開設し、現在に至る。
現在は、不動産ファンドのSPCに係る税務会計業務を得意とするほか、東証一部企業から中小企業、芸能人・スポーツ選手まで幅広い層の顧問先と共に奮闘中。
・電子書籍「ちょっと行列のできる税務相談所」リリース
・「今すぐ取りかかりたい 最高の終活」共著

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