【不動産の法律 第2回】賃貸借契約期間中/満了に伴う明渡しを求める場合の注意点
専門家コラム

【不動産の法律 第2回】賃貸借契約期間中/満了に伴う明渡しを求める場合の注意点

賃借人に物件の明渡しを求める場合の注意点

1.はじめに

敷地の有効活用の観点や老朽化建物の建替えによる利回り改善の観点から、収益用レジデンスの建替えを検討する場合、賃貸借期間中あるいは期間満了のタイミングで賃借人に対し明渡しを求めたいというケースは多くあろうかと思います。
また、建替えのケースでなくても、何らかの理由により賃借人の入替えを図りたいと思われる場合もあるでしょう。

今回のコラムでは、こうした場面で賃貸人(不動産オーナー様)が誤解されていることが多い点について述べたうえで、注意すべき点について説明いたします。なお、賃料未払が継続している場合の明渡しについては、前回コラムをご覧ください。 

2.賃貸人側の抱える多くの誤解

不動産オーナー様からご相談を受けている中で、誤解されていることが特に多いと感じる点が二点あります。

第一に、賃貸借契約で中途解約の規定や賃貸借期間の定めさえあれば、借地借家法上の定期建物賃貸借契約でない普通借家契約であっても、期間途中での解約や期間満了による明渡しは容易と誤解されていることが多い点です。

第二に、普通借家契約の場合には明渡しが容易でないことは理解しているものの、定期建物賃貸借契約として認められるための法律上の要件を満たしていないにもかかわらず、ご自身が締結されている賃貸借契約が定期建物賃貸借契約に該当すると誤解されていることが多い点です。

3.普通借家契約の場合には明渡しは容易ではない

(1)収益レジデンスの賃貸借契約の中で、後述する定期建物賃貸借契約に該当しない普通借家契約の場合には、中途解約規定や賃貸借期間の定めがあっても、明渡しは容易ではありません。借地借家法により、普通借家契約の場合には賃借人がかなり強く保護されるためです。

(2)まず、中途解約規定ですが、これは賃貸借期間の途中で賃貸人から解約するための必要条件であるとしても、十分条件ではないといえます。
すなわち、賃貸人の側から期間途中での解約を主張するためには、中途解約規定を契約で定めておくことが必要なのですが(その意味で必要条件といえます。)、単に期間途中での解約や明渡しを賃貸人が主張したとしても、訴訟になった場合には認められません。
認めてもらうためには、さらに解約申入れ時に「正当の事由」(借地借家法28条)も存在しなければ十分ではないのです(なお、民法618条と617条を読むと、建物賃貸借の期間途中での解約は、申入れ日から3ヶ月を経過すれば認められるようにも読めますが、建物の賃貸借の場合、原則として借地借家法が民法に優先して適用されます。
そして、借地借家法では、建物賃貸人による解約申入れには「正当の事由」が必要としているのです(同法28条)。)。

(3)また、賃貸借期間の定めがある場合において、期間満了による契約終了及び明渡しを求める場合も、同様に「正当の事由」が必要とされています。すなわち、賃貸借期間が満了し、契約更新を拒絶する場合についても、借地借家法28条により「正当の事由」が必要とされています。

(4)それでは、借地借家法28条にいう「正当の事由」の内容は何かということですが、条文上は、「建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出」を考慮するとされています。
これを裁判例に基づいて具体的にいえば、最重要と考えられる要素は、賃貸人、賃借人双方の建物使用の必要性です。不動産オーナー様側から見ると、賃貸人としての建物使用の必要性として居住や営業、建物売却の必要性等を具体的事実に基づいて主張することになります。もっとも、収益レジデンスの場合、不動産オーナー様側の必要性は、営業や建物売却といった観点が中心になり、賃借人が自宅として居住する必要性と比べれば、類型的に必要性の程度が弱くなることが多いと考えられます。
また、それ以外の要素である賃貸借に関する従前の経過や、建物の利用状況、現況の点で賃貸人側に有利な事実があれば良いのですが、そうした事実がなかなか存しない場合の方が多いといえます(例えば現況の要素として建物老朽化を主張するとしても、客観的資料から老朽化が著しいといえる場合や、耐震強度検査で「倒壊の危険性が高い」との診断がされた場合には「正当の事由」肯定の方向に傾きますが、そこまで至らない場合には、「正当の事由」肯定に傾くとまではいえない場合があります。)。
そうすると、最終的には「財産上の給付」、つまり立退料等の金銭をどの程度支払うかという問題になることが多いといえます。
このように、普通借家契約の場合、明渡しを求めるには高いハードルを乗り越える必要がありますし、ハードルを乗り越えるには、立退料等の金銭が必要となることを想定する必要があります。

(5)そこで、不動産オーナー様には、今後の建替え等も見越して定期建物賃貸借契約を締結しておこうというニーズも生まれるのですが、定期建物賃貸借契約についての誤解も多いところです。

4.その契約、本当に定期建物賃貸借契約の要件を満たしていますか?

定期建物賃貸借契約に該当する場合には、契約更新はないことが前提です。更新拒絶もないわけですから、正当の事由がなくても明渡しを求めることが可能です。

もっとも、定期建物賃貸借契約といえるには、借地借家法38条1項及び2項の要件を満たす必要があり、この要件を満たさなければ、契約更新がないと主張することができなくなります。そうすると、結局は先に見た「正当の事由」が必要となってしまいます。

定期建物賃貸借契約に該当すると主張するためには、①賃貸借契約書等の文書で、借地借家法38条にいう定期建物賃貸借契約に該当することを明示しつつ(なお、借地借家法38条1項は「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」としていますが、公正証書を作成しなくても書面であれば問題ありません。)、これとは別に②定期建物賃貸借契約に該当し、更新がないこと等を説明した書面を差し入れておく必要があります。

定期建物賃貸借契約に該当するか否かにより、明渡しの際の難易度はかなり異なってきます。不動産仲介業者を利用する場合には、定期建物賃貸借を希望することを明確に伝えつつ(この点の意思疎通が不十分で、不動産オーナー様側は定期建物賃貸借を締結したつもりだったものの、実際にはそうした形になっていなかったというケースもあります。)、弁護士等の専門家に念のために確認を依頼することも考えられるところです。

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弁護士 今井 智一(いまい ともかず)

今井関口法律事務所 代表弁護士

各種不動産取引は勿論のこと、企業法務分野を中心に幅広い経験を有している。

・東京大学経済学部経営学科卒業、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻(法科大学院)修了
・東京弁護士会(第63期)
・栗林総合法律事務所及び清水直法律事務所を経て、2018年3月、銀座に今井関口法律事務所を開設
・株式会社エル・エム・ジー(LMG) 社外監査役(2016年~)

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