2019年02月28日(最終更新:2023年06月02日)
ITの導入が遅れていると言われている不動産業界ですが、ここ数年不動産業界にもITを活用した新たな仕組みが広がり始めています。これらは、これまでは「不動産テック」あるいは、「REテック」というのが主流でしたが、最近では「プロップテック」という呼び方が広まっています。
そんなプロップテックの1つを今回はご紹介しましょう。ブロックチェーン技術を活用した不動産投資の仕組みです。
ブロックチェーン技術を活用した「トークン不動産」が国内、海外で少しずつ組成されています。
1月16日の日経新聞で、「米国で仮想通貨などの基盤技術であるブロックチェーン(分散型台帳)を使った不動産投資が登場している。
物件を裏付けとしたトークン(デジタル権利証)を投資家が受け取り、賃料収入や売却益を得る仕組みだ。
投資家が簡単な手続きで購入できるメリットがあるが、トークンの売買の流動性など課題も多い。」との記事がありました。
トークン不動産とは、物件を裏付けとしてトークンを発行し、資金調達を行うことで建設される不動産のことです。
記事によると、「米証券のプロペラー・セキュリティーズがテクノロジー会社のフルイディティと組み、不動産を担保にしたトークンを発行。投資家から約3000万ドル(約32億円)の資金を集めることに成功した。ニューヨーク・マンハッタン初のトークン不動産となる。」 とあります。(日経新聞HPより、引用)
また、日本でも、不動産事業を展開するRAX Mt. Fuji合同会社」が、FUJIトークンを発行することを発表した。物件のフリーキャッシュフローのライツ(権利)をトークン保持者に与え、物件に関する書類、契約、経費、配当金、その他発生した関連情報はすべてブロックチェーンで確認可能となっています。
こうしたトークン化された、不動産投資におけるメリットと懸念点を挙げておきます。
メリットとしたあげられるのは、以下の6点です。
・仲介会社が必要ない
・手数料がかからない
・世界中のトークンを購入できる
・ロックアップ(売買できない)期間が存在しない
(私募不動産ファンドでは、ロックアップ期間ありもあります)
・手続きが簡単
・サーバを分割しているため、ハッキングやデータ改ざんに強い
逆に懸念点とされているのは、以下の4点です。
・仲介会社による保証がないため流動性がなくなる可能性がある
・ブロックチェーンのシステムそのものが間違っている場合には間違ったデータが導入されうる
・匿名性が高い→マネーロンダリング目的で使用される可能性がある
・機密性が低い→大規模な取引情報を基に、金融取引や各種プロジェクトの情報が推測され得る
まとめると、利便性は高く、国際的な不動産取引につながるという面で将来性は大きいですが、安全性・安定性が低く、資産運用の手法としては未だ危険だといえます。
そのため、より精度の高いブロックチェーン技術の選定と、柔軟性に富んだ法制度の制定が課題とされます。
思い起こせば、2001年の9月、ニューヨークマンハッタンのビルに飛行機が突っ込んだ前日の9月10日、東京証券取引所に2つのJREIT(日本ビルファンド=三井系、ジャパンリアルエステイト=三菱系)が初めて上場しました。
この時は、まだREITの仕組みが理解できていない方も多く、業界では多少注目を集めましたが、広くREITが知れ渡り、多くの個人投資家が投資対象にするまでには時間がかかりました。
しかし、今では多くの方がREITに投資をしており、近年では安定した利回りを得ることができる安全な(?)資産として投資を行っています。
ここでご紹介したトークン不動産もREITと同じように、いまはまだなじみがなく、若干不安な投資対象に思えるかもしれませんが、近いうちに一般的な投資対象になることでしょう。注目しておいた方がよいと思います。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。