不動産投資とキャップレートの考え方 | 賃貸住宅キャップレート低下が止まらない要因を分析
不動産コラム

不動産投資とキャップレートの考え方 | 賃貸住宅キャップレート低下が止まらない要因を分析

キャップレートは「どのくらいの利回りを期待するのか?」を指標化

土地活用を含めた各種不動産への投資を行う場合、どのくらいの利回りを期待するのか?
その答えは、投資を行う方の考え方によると思います。しかし、「どのくらいの利回りを期待している方が多いのか」については、自身の期待利回りについての妥当性の基軸となると思いますので、知っておくとよいと思います。

期待する利回りのことを「キャップレート」(正しくは,Capitalization Rate)と言います。
不動産投資の指標の一つで、「期待利回り」、もしくは「還元利回り」と訳されます。この指数は、不動産投資をしようとしている人がどれくらいの利回りを期待しているかが分かるものです。

賃料やそのほかの要因が一定だとすると、キャップレートの低下は不動産価格の上昇を意味します。
住宅賃料は、当然市況に左右されますが、短期間でそれほど大きな動きをしません。そのため、キャップレートの低下は、大半の場合、価格上昇を意味することになります。それはつまり、「価格上昇でも、不動産投資、を行いたいと思う方が増える傾向にある」ということになります。

キャップレートは立地状況や投資不動産の種類(オフィスビル、ワンルームマンション、ファミリーマンション、商業施設など)、そして賃貸住宅などでは、建築工法によっても変わってきます。

キャップレートはいくつかの機関から公表されていますが、今回はそのひとつを紹介し、分析してみたいと思います。

社団法人不動産証券化協会が半年に1度調査・公表している「不動産投資短期観測調査」、その最新(第27回)の調査分析が、4月に入り公表されました(調査時点は2018年12月です)。この調査は、「日本の不動産投資市場の現状と先行き」について分析することが主眼とされています。各種機関投資家、アセットマネージャー等に対してのアンケート調査をもとに分析を行っていますが、その大項目の一つが、キャップレートについてとなっています。

この中にある、賃貸住宅のキャップレートについて見てみましょう。

賃貸住宅の調査エリアは、東京23区では、城南地区(目黒区・世田谷区)、城東地区(墨田区・江東区)、 港区の「麻布・赤坂・青山」地区 、札幌 、仙台、さいたま、千葉、横浜、名古屋、大阪、神戸、広島、福岡の各都市となっています。

キャップレートはリーマンショック後に全国的に一気に高くなりました。東京都心一等地でも6~7%台となりました。その後ショックの収まりが見え始めて、徐々に低下していきます。最新の公表数字では、都心の最も高いとされる3Aエリア(麻布・赤坂・青山)では、ワンルームタイプの賃貸住宅のキャップレートは4.0 %となっています。

ちなみに、城南エリアは4.1%、城東エリアは4.3%、札幌5.3% 仙台5.4%、さいたま5.0%、千葉5.3%、横浜4.9%、名古屋5.0%、大阪4.9% 神戸5.2% 広島5.5% 福岡5.0%となっています。

このキャップレートですが、高ければ良いとか、低ければ良いというものではありません。投資家が考えるリスクの差が数字の差を生んでいるのです。

たとえば、福岡の物件に投資するならば、ワンルームには5.0%程度の利回りが欲しいと投資家が思っていることが分かります。一方、東京はワンルームは4%代前半と福岡よりも低くなっています。

これは、マーケット(投資家)は、たとえ利回りが低くても東京の物件を購入したいと思っているということであり、考え方を変えれば「東京の方がリスクが低いと思っている」とも言えます。キャップレートの高い物件を購入し不動産投資すれば高い利回りを期待できそうですが、キャップレートが高いということはつまりリスクも高いということなのです。

詳細な数字は社団法人不動産証券化協会のHP(https://www.ares.or.jp/)を見ていただくとして、今回の公表データで注目すべき点をお伝えしておきます。

この調査は半年に1度行われますが、前回の調査(調査時点2018年6月)では、この先半年のキャップレート(つまり今回の調査結果)は、もうほとんど下がらないと予想していた回答が多かったのですが、蓋を開けてみれば、この間も多くのエリアでキャップレートは低下しました。

2018年の上期には「不動産価格はそろそろ天井か?」と、回答をしている方々(=専門家)は考えていたようですが、実際にはまだまだ不動産市況は良かったということになります。

そして、今回の調査における、「このさき、どうなると思うか?」の分析結果では、「価格上昇はもう少し起こりそう」ということになっています。もちろん、金利の動向、世界経済の動向など、不透明な要因もありますが、こうした要因で大きなショックが起こらない限り、現在の好調な不動産市況はしばらく続くと思われます。

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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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