【吉崎誠二の不動産市況コラム】全国主要都市の賃貸住宅賃料の上昇がいっそう顕著に
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【吉崎誠二の不動産市況コラム】全国主要都市の賃貸住宅賃料の上昇がいっそう顕著に

 2025年9月25日のアットホーム社から公表された2025年8月分の全国主要都市の「賃貸マンション・アパート募集家賃動向」によれば、多くの主要都市で最高値(調査開始の2015年1月以来)となっているようです。
 本調査は、募集賃料のデータで首都圏(1都3県)、札幌市、仙台市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、広島市、福岡市と全国の主要都市をカバーしたものです。
 これによれば、マンションの平均募集家賃は、東京23区・東京都下・埼玉県・千葉県・京都市・福岡市の6エリアで、全面積帯とも前年同月を上回っています。ファミリー向けのマンションでは、東京23区・千葉県・札幌市・仙台市・大阪市・広島市・福岡市の7エリアで2015年1月以降最高値を更新しました。シングル向きマンションでは東京23区が15カ月連続、大阪市が13カ月連続で最高値を更新しました。賃貸マンション賃料は、物件価格上昇との連動は遅れていましたが、物価上昇に伴い大きく上昇しています。

賃料変化と不動産投資

賃貸住宅投資において、賃料の動向は極めて重要です。
収益不動産においては、その概算価格はNOI(賃料等収入-経費)÷還元利回りで計算されることが一般的です。式のとおり、近年続いているような還元利回りが下落傾向にあれば、価格は上昇します。また、NOIが上昇しても価格は上昇します(逆も同じです)。
この式では、現行の賃料、経費で計算して算出しますが、賃貸住宅投資においては、多くの方が5年を超える長期で保有されますので、「現行」の賃料だけでなく、「将来」の賃料を加味する必要があります。
この「将来」の賃料について本来は毎年の賃料を想定したものを割り戻す形で計算する必要があります(DCF法での計算)。しかし、先に示した式を簡易的に用いることが一般的で、その際の考え方としては「賃料の変化は還元利回りに織り込まれている」ということになります。

賃料の2つの特性

住宅の賃料には、「遅行性」、「粘着性」という特性があり、「遅効性」とは一般的に景気動向に敏感に反応するのではなく、また不動産価格や地価の上昇や下落に遅れて、その影響が表れるということです。その傾向は、(不動産ですから個別性はありますが)例えば首都圏においてマンションは2013年頃から上昇、また投資用住宅も2014年頃から価格上昇傾向にありましたが、住宅賃料に上昇傾向が見られ始めたのは2018年ころからです。
物件の価格が上がれば(つまり物件の価値が上がれば)、それを使用する権利(賃借権)も上がると考えるのが普通ですが、住宅賃料はそう簡単なものではありません。例えば、東京都区部などでは80㎡8000千万円の分譲マンションが、この10年で1.6億円と2倍になる例は珍しくありませんが、その物件の賃料が30万円から60万円になったという例は稀です。概ね30万円が45万円~50万円と1.5倍という状況です。このように、物件価格上昇期には、賃料も上昇傾向となりますが、「やや遅れて」(=遅行性)、「それまでの賃料に引っ張られる形での変化」(=粘着性)という傾向がみられることが一般的です。

2種類の賃料

賃料の動向を知るためには、2つの住宅賃料の特性を知る必要があります。
不動産鑑定においての用語でいえば、「新規賃料」と「継続賃料」ですが、JREITのIR資料などでは、前者は「入替時賃料」、後者は「更新時賃料」と表記されることが多いようです。
「入替時賃料」は、前の賃借人が退去して新たな賃借人を求める際の賃料です。冒頭の調査データは「募集時賃料」とありますので、つまりは「入替時賃料」です(正確には、募集賃料から賃料を値引くことありますので、多少異なります)。
新規賃料=入替時賃料は、市況や周辺相場を見て、貸主が決めますので、上昇下落に幅が出てきます(ボラティリティが大きい)。しかし、普通賃貸借契約での継続賃料=更新時賃料は、貸主と賃借人の双方合意で決まりますので、貸主も大胆な値上げはしにくくなり、また市況悪化時に大幅に下げることもありません。
近年のように、賃料上昇局面では新規賃料の方が有利になることから、都心物件など需要が旺盛でオーナーが優位に立つエリア等では、普通賃貸借契約ではなく、3年程度の定期賃貸借契約を結び、更新するならば、新規賃貸借契約扱いで、新規賃料が提示されます。さらに、オーナーは新規契約に際しての礼金を求めることができます。

賃料上昇で賃貸住宅投資の魅力高まる

冒頭調査データは「募集賃料」ですが、これに継続賃料(=更新時賃料)を加味しても、数値は低くなるものの、多くの地域で住宅賃料は最高水準にあり、賃貸住宅投資の魅力がますます高まっていると言えるでしょう。

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不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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