2025年09月05日(最終更新:2025年09月05日)
収益不動産の購入(投資)に際して、法人・個人を問わず、ほとんどの場合金融機関からの融資(デッドファイナンス)を利用します。
J-REITの銘柄では、デッドでの借入比率(LTV)は40%台が多くなっていますが、個人が投資するワンルームマンションなどではフルローン(LTV100%)に近い水準での投資も見られます。投資の健全性・安定性を重視するJ-REITでは半分以下であり、ゆとりある収益不動産運用を目指すならば80%程度にしたいところですが、LTVをどのくらいに設定するのかは、投資家の考え方しだいです。貸出金融機関による物件の評価額により、物件価格の最大融資額は決まりますが、投資する個人や法人の信用力(あるいは関係性)、また物件供給デベロッパーの信用性も貸出限度額は変動するようです。加えて、経済環境や金融を取り巻く環境、不動産市況などの影響により金融機関の融資スタンス(融資審査の厳しさ)は多少変化するようです。
融資担当者が「最近、厳しいです」や、「最近は積極的に融資しています」とささやくことはあるようですが、公に「融資スタンス」を公表する金融機関はありません。しかし、いくつかのデータをみれば、「融資スタンス」の状況を推し量る事ができます。
そのデータの1つが、日銀が公表している「個人貸家業への設備資金新規貸出額」です。
グラフは、2009年から2025年第一四半期までの、日銀が四半期ごとに公表している、金融機関が個人で貸家業をおこなう方向けの融資(主に建築費やリノベーション工事費用)の推移を示しています。黄緑のギザギザしている線が新規貸し出しの金額ですが、トレンドが見えやすいように四半期ごとの移動平均を算出したものが緑の実線です。
これをみれば、不動産投資が積極的に行われ始めた2013年以降増え始め2017年ごろにピークを迎えます。その後、不正融資の問題が大きく取り上げられた2017年後半から2020年にかけて融資スタンスが厳しくなりました。不正問題に加えて、貸出総量が増えていたことからブレーキがかかったものと推測されます。バブル期の最終盤やミニバブル期後半にも見られた「総量規制」と呼ばれるものです。
コロナ禍を経た2021年前半ごろに底を打ち、その後は概ね右肩上がりに融資額が増えています。とくに、2024年以降は上昇幅(増加幅)が大きくなっており、昨今、融資スタンスは緩和されているものと思われます。投資家の投資意欲も旺盛で、それに対して金融機関も融資を積極的に行っているようです。
別の日銀資料(地域金融機関の不動産業向け貸出の現状:2024年3月公表)をみれば、大手銀行(メガバンク)よりも積極的なのが地方銀行です。資料によれば、不動産業向けの貸出残高は、2010年以降地域金融機関が大手行等を上回って推移しており、大手行等も残高を増やす中で、それを上回る水準となっています。
地銀の不動産業向け貸出残高は、前掲のグラフと同様に、2021年前半を底として前年比のプラス幅が拡大傾向となっています。2013~2017年頃までは賃貸住宅向け貸出が伸びの中心となっていましたが、2021年以降では不動産ファンド・J-REIT 向けなども増えているようです。
多くの地方都市では、積極的に設備投資を行う企業が少なく、地銀が活躍する場面が多くなく、このため地銀では首都圏や関西圏の支店などが積極的に不動産向け融資を行っているようです。
ここ数年、金融機関の不動産投資への融資、不動産企業への融資は積極的に行われており、「融資スタンスは良好」という状況が続いています。とくに地銀やノンバンクなどが積極的に融資を行っており、不動産投資においては有利な状況となっています。この傾向がいつまで続くかはわかりませんが、少なくとももうしばらくは続くものと思われます。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。