【吉崎誠二の不動産市況コラム】収益不動産の売買は、信頼できる企業との長期的なお付き合いがカギ
専門家コラム

【吉崎誠二の不動産市況コラム】収益不動産の売買は、信頼できる企業との長期的なお付き合いがカギ

経済学では、財やサービスの価格は「需給バランスで決まる」ということがベースとなります。ただし、自由市場において、市場参加者が合理的に判断できることが前提です。自宅、賃貸用住宅などの不動産価格でも同じ原則が適用されます。ただし、自宅においては、「たとえ割高でも、どうしてもこの物件に住みたい」という感情を持つ方もいるため、100%合理的な判断ができるかどうかはわかりません。賃貸用住宅のような収益不動産の価格は、基本的にはその不動産から得られるものの価値、つまり収益性で決まります。投資採算性を合理的に判断できるという前提で、投資用の不動産価格は決まります。

住宅における消費と投資

いずれの場合でも、「何かを購入する」という行為、つまり消費は「所有や利用、消費に対して得られる効用」を求めるということになります。その場合、費用の中で効用の最大化を目指すことになります。一方で、投資においては、お金を自己資金や借入等により投下しますが、目的は効用ではなく、「そこから得られる収益」を求めることになります。その際には、収益性の最大化を目指します。このように、消費と投資では求めるものが異なります。

自宅の売買と合理的判断、価格のゆがみ

自宅に何を求めるかは、単身か家族がいるか、その他ライフスタイルにより大きく異なります。また、衣食住にお金をかける割合は個人差があります。ローン比率などから見る、標準的な住居費年収割合は概ね25~30%とされていますが、これも人それぞれでしょう。

自宅において「何を重視して選ぶか」のアンケートでは、利便性(通勤・通学・その他)、間取り、賃料(あるいはローン支払い額)が、いつもベスト3の回答となりますが、これ以外にも、趣味などを含めた住み心地、あるいは地域(アドレス)に対するステータスなどもあるでしょう。これらを満たすことにより得られる効用の対価として住宅価格(あるいは賃料)があるとすれば、交通利便性、都心からの距離などが価格に大きく影響することになります。

ここで、住宅を買うときや売るという場面で合理的な判断ができるのでしょうか。
何をもって「合理的な判断」とするかは難しいですが、基本的には「安いと思えば買う」「高いと思えば売る」ということでしょう。「この先値上がりしそう」は「安いと思う」であり、「下がりそう」は「高いと思う」です。「いまは最高水準に高く売れそうだ」と思っても、自宅の場合は「すぐに売却する」という合理的な判断をできる方はほとんどいません。

逆に、賃料の更新、子供の進学等の理由で「かなり高いな」と思っても、自宅を購入する方も多くいます。また、何らかの事情で「安くても売り急ぐ」という例も多くあります。

このように、自宅用物件の場合は、じっくりいろんな物件を検討すれば、購入時なら「お買い得物件」「掘り出し物物件」があったり、売却時なら「意外に高く売れる物件」があったりという事例が結構多くあります。自宅の売買においては、価格の歪みが生じている物件が散見されるということです。

収益不動産の価格

改めて言うまでもありませんが、収益不動産投資とは、賃料収入を得ることのできる不動産への投資であり、投資対象不動産としては多様ですが、個人で行うものとしては賃貸住宅(一棟、区分)、オフィスビルなどが主流です。

収益不動産の価格も、需給のバランスで決まりますが、収益を得るための不動産ですから、「その不動産が生み出す果実の価値」で価格が決まります。

具体的には、
収益不動産の価格=NOI ÷ 還元利回り
ここでいうNOIは純収益で、賃料等の収入から経費などを引いたものです。還元利回りは、期待利回りで計算するならキャップレートを用い、取引事例による還元利回りを適用する場合もあります。昨今の東京都区内では3%台の物件が多いようです。                         NOI:(Net Operating Income

収益不動産の価格合理性と不動産会社との付き合い

収益不動産の場合、市場参加者は投資家(一般・プロ)であり、自用ではありませんので、効用よりも収益性を重んじるため、基本的には合理的な判断により物件購入あるいは売却を行います。そのため、極端なお買い得物件は少なく、また極端な売り急ぎ物件も少なくなります。

このように考えれば、投資家が適切な物件を購入する、または売却する際には、あれこれいろんな業者(不動産会社)とやり取りするよりも、信頼できる業者と強固な結びつきの中で売買活動を行うことが得策と言えるでしょう。

【不動産の税金 第1回】投資用不動産、法人での購入と個人での購入はどちらがお得か?
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私は、職業柄、不動産投資家の方々とお話をする機会が多々ある。多くの方は、投資理論を持ち、「何故、その物件に投資をしたのか」投資根拠を持っている。それを聞いて、私の方も、「なるほど!」と納得させられる事...

不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)

社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長

早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。

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