
2026年08月06日(最終更新:2026年08月06日)
2026年7月1日、国税庁が令和8年分(2026年1月1日時点)の路線価を公表しました。全国約31万地点の標準宅地の平均変動率は前年比+2.9%となり、5年連続の上昇です。伸び率は算定方式が現在の形になった2010年以降で最大となりました。前々年+2.3%、前年+2.7%と、上昇率そのものが年を追って拡大している点が今回の最大の特徴です。また、路線価は基本的には公示地価を基に算定されますので、上昇率などは似たような値となります。都道府県別では上昇が36、横ばいが3、下落が8で、上昇地域が前年から1県増えました。前年までマイナスだった奈良県が+0.1%と反転しています。さらに象徴的なのが、47都道府県庁所在都市の最高路線価で下落した都市がゼロとなったことです。これはバブル期の1991年分以来、35年ぶりの出来事で、44都市が上昇、青森・津・鳥取の3市が横ばいでした。全国最高路線価は41年連続で東京都中央区銀座5丁目の銀座中央通り(鳩居堂前)、1平方メートル当たり5,336万円(+11.0%)です。
首都圏に目を移すと、東京都の平均変動率は+9.4%で都道府県別では全国最高でした。前年の+8.1%からさらに加速し、全国平均の3倍を超えています。都内ではオフィス・分譲マンション需要に加え、観光需要の波及が顕著で、台東区浅草1丁目の雷門通りが+27.5%、足立区千住3丁目の北千住駅西口駅前広場通りが+24.2%と、都心5区以外でも二桁の伸びが目立ちました。
一方、周辺三県は一様ではありません。神奈川県は+4.5%と5年連続の上昇で、上げ幅は前年から0.1ポイント拡大しました。千葉県は+4.4%で13年連続の上昇、こちらも2010年以降で最大の伸びとなりました。しかし、千葉県では郊外エリアではマイナスの地点も見られます。
埼玉県は+2.3%と、上昇率自体は現行方式となった2011年以降で最高ながら、全国平均並みにとどまりました。15税務署の最高路線価も上昇9地点、横ばい6地点と、川口・西川口・大宮・浦和など再開発が進む県南部に上昇が集中しています。つまり「首都圏」と一括りにできる局面ではなく、東京>神奈川・千葉>埼玉という序列が、はっきりと数字に表れているのです。
第一に、担保評価と与信の改善です。路線価は公示地価の8割程度を目途に設定されるため、その上昇は金融機関の土地担保評価の底上げに直結します。既存保有物件のLTVは自動的に改善し、追加取得やリファイナンスの余地が広がります。第二に、取得価格から見た利回りの圧縮です。
地価上昇は取得価格の上昇であり、賃料の伸びがそれを上回らない限り、新規取得の利回りは低下します。東京+9.4%という数字は、裏を返せば「今から買う人」にとっての参入障壁の上昇にほかなりません。賃料上昇が地価上昇に追いついているエリアかどうかの見極めが、これまで以上に重要になります。第三に、相続・贈与を絡めた資産設計への影響です。令和8年分は2026年中に発生した相続・贈与の土地評価に用いられます。評価額の上昇は、そのまま税負担の増加を意味します。
土地比率の高い資産構成ほど、最新路線価での再試算と納税資金の手当てを前倒しで進める必要があります。第四に、金利との綱引きです。日本銀行は2026年6月に政策金利を1.00%へ引き上げ、長期金利も上昇基調にあります。地価上昇と金利上昇が同時進行する局面では、キャップレートの低位安定がいつまで続くかが最大の論点となります。地価が上がっているから安心、という単純な話ではありません。
令和8年の路線価が示したのは、地価上昇の裾野が地方にも広がった一方で、東京都心・観光地と、需要の乏しい地域との差がむしろ拡大したという事実です。投資家に求められるのは、全国的な傾向だけでなく、自らの保有・検討エリアの路線価を個別に確認し、賃料動向と金利環境のなかに位置づけて読む姿勢でしょう。


不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。