
2025年12月08日(最終更新:2025年12月08日)
近年の新築マンションの供給減少、それに伴う価格上昇の背景には、「建築費の上昇」が要因のひとつとして挙げられます。この建築費のトレンドを読み解くことは、不動産市場全体の動きを把握することに繋がりますので、投資判断の材料として把握しておきたいものです。今回は、建築費の動向を把握できるデータとして代表的な「建設工事費デフレーター」と「建築費指数」の違いを明確にした上で、最新の数値を用いて近年の建築費の動向について解説します。
「建設工事費デフレーター」とは、「国全体の建設工事費がどのくらい値上がり(または値下がり)しているか」を示す指標です。ただ、経済状況等により物価は常に変動していますので、そのまま時系列で比較することは正確な分析とは言えないでしょう。そこで、国土交通省が毎月公表している「建設工事費デフレーター」では、実際にかかった「名目工事費」を基準年度(現在は2015年度基準)の「実質工事費」に変換して指数化されています。この指数化されたデフレーターを使用することで現在の物価水準に合わせて建築費の推移を把握することができ、不動産投資の際の判断材料として役立てることができます。
一方、一般財団法人建設物価調査会が毎月公表している「建築費指数」は、「建築工事にかかる工事価格がどのくらい変化したか」を示す指標です。工事費や資材費、労務費等を基準年度(現在は2015年度基準)で指数化しており、全国主要10都市(東京、札幌、仙台、新潟、金沢、名古屋、大阪、広島、高松、福岡)の指数が算出されています。「建設工事費デフレーター」と比較して時系列・地域別の変動を細かく捉えることができるため、より目的に合わせた特定の市場環境や地域性を考慮した観察に繋がります。また、「建築費指数」は「建設工事費デフレーター」と比較して短期的なトレンドに敏感な傾向があることも特徴のひとつです。「建設工事費デフレーター」はマクロな視点での国全体の建設投資の動向の把握に繋がり、「建築費指数」は地域別かつ現場寄りの建設コストの動向の把握に繋がります。

・建設工事費デフレーター(住宅総合)の推移

(国土交通省「建設工事費デフレーター」より作成)
※2015年度を基準とし、100とする
上のグラフは、2016年以降の建設工事費デフレーター(住宅総合)の推移です。グラフを見ると、建設工事費は徐々に上昇していることが分かります。特に2021年から2022年に急上昇しています。また、直近に公表された2025年8月は130.0で、2016年1月時点より30%上昇しています。この要因としては、原材料費の上昇をはじめ、人件費や運送費の高騰が建設工事費の上昇に繋がっていると捉えることができます。2021年に上昇幅が拡大した要因もウッドショックが大きく関わっていると考えられ、諸経費の増加は建設工事費に大きく影響を与える要素のひとつです。また、建設業界において「需要 > 供給」の構図ができていることも要因として挙げられます。これらの要因が重なったことで建設工事費デフレーターは着実に上昇が拡大しており、状況が大きく変わらない限り今後も上昇を続けていくと思われます。
・建築費指数の推移(集合住宅、鉄筋コンクリート造、東京)

(一般財団法人建設物価調査会「建設物価 建築費指数®」より作成)
※2015年を基準とし、100とする
このグラフは東京の集合住宅(鉄筋コンクリート造)の建築費指数の推移です。前述の通り、建築費指数は特定の地域の市場環境の動向を把握することができるため、ご自身の投資エリア等に合ったデータを参照することをおすすめします。このグラフを見ると、建築費指数は長らく横ばい状態が続いていましたが、2021年頃から上昇基調で高水準を保っています。直近公表された2025年10月分のデータでは、「工事原価」が140.8、「準工事費」が142.2、「建築」が143.4、「設備」が137.8でした。このように建築費指数でより詳しく建築費の動向を確認することができます。
今回は、建築費の動向を把握できる「建設工事費デフレーター」と「建築費指数」について解説しました。特徴や性質が異なったふたつのデータを上手に活用し、また他の様々なデータと組み合わせることで、より適切な投資判断に繋げることができるでしょう。


不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。