2020年07月06日(最終更新:2023年06月15日)
賃貸住宅需要を検討する時、人口の移動は大きな要因となります。都道府県をまたいで移動する方の大半は、18歳~25歳くらいの方々で、その理由は進学(大学・専門学校への進学)と就職によるものです。
また、通勤・通学は可能だとしても、進学・就職を機に、「親元を離れて暮らす」という方もいます。最近は、「暮らしレベルを下げたくない」などという理由で、親元を離れない方が増えてきているという事ですが、それでもこうした時期から「一人暮らしを始める」方が多いと思います。
こうした方々の大半は、何らかの形の賃貸住宅に住みます。ここで「何らかの形」と書いたのは、主には民間賃貸住宅ですが、その他にも例えば借り上げ社宅や寮のようなものもあるからです。しかし、これらも借り手と貸し手が直接ではないにしろ、そこには賃貸物件を所有する方がいるわけです。
総務省は2020年1月末に、「2019年人口移動報告」を発表しました。
東京都は、当時「都心回帰」と言われ始めた1996年以来、23年連続の転入超過。そして、最新の2019年分データでは、2019年1年間の東京23区への転入数は過去最高の約37万2000人となりました。
こうしたことから分かるように、近年の東京での賃貸住宅需要が極めて高く、空室率が少ないわけです。
下図は、1950年代から2019年までの、東京23区における人口流入と人口流出との差を示しています。ゼロより上、つまり青い部分(年)が流入超過、逆に赤い部分(年)が転出超過ということになります。
これを見ると、すでに1960年代から東京23区からの人口流出が増えており、転出超過になっています。ゴミゴミした都心から離れて、郊外の一定サイズの戸建住宅に住む方が増えたのです。
この傾向は20年程度1980年代初めまで続きますが、1980年代半ば頃には均衡状態になります。
しかし、その後不動産価格が上昇(バブル期)し、東京23区の物件は「買いたくても買えない価格」に、賃貸住宅は「借りたくても借りられない賃料」になり、転出超過になります。
そして、不動産市況の狂乱の時代が終わり(バブル崩壊)、不動産価格が落ち着きを見せ始めた1990年代半ばごろから、都心回帰が始まります。
不良債権となっており、「売るに売れない」等、タブ着いた不動産が動き始めたこと、債務処理や企業が保有する未活用不動産の売却などにより、徐々に不動産市場が正常化し始めます。
これが2000年代の前半、このころには、「都心に住む」が、一般化(あこがれ化)してきます。
それまでは、「郊外に住む」が主流でしたので、大きなレジュームチェンジの時となりました。これ以後は、ミニバブル期(2005年~7年)に不動産市況は盛り上がりますが、その後リーマンショックを経験します。そして2012年の終わりごろから不動産市況が好転、現在に至っています。
この間1996年以降、東京23区では連続して転入超過になっています。
東京23区をはじめ首都圏の主要エリアは、基本的に人口流入が続き賃貸住宅需要は安定していますし、この先もその傾向は続くと思います。今回の新型コロナウイルスショックやリーマンショックといったレベルのネガティブ局面では、この傾向に大きな変化はないと思います。
しかし、起こるかもしれない大きなネガティブな要因があるとすれば、首都直下地震とそして最近再び議論が復活している「首都移転構想」だと思います。
このように人口の移動の実態を長期的に見ることで、賃貸住宅需要が、この先どうなるのかがある程度見えてくると思います。賃貸住宅の投資において、それを生業としている方を除けば、一度所有すると長年持ち続けるという方が大半です。そのため、賃貸住宅を購入する=30年~35年の長期にわたり保有するということになります。
このように、単年での数字ではなく、長期推移を見ることで新たな気づきがあるのではないでしょうか。
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