不動産IDとは? 導入のメリットと不動産投資・取引におよぼす影響を考察
不動産コラム

不動産IDとは? 導入のメリットと不動産投資・取引におよぼす影響を考察

不動産の譲渡や登記、物件情報の管理において、住所(住居表示)や地番・家屋番号など、複数の識別情報が使用されています。このため、同一物件を特定する際には、各種情報を照合する必要があり、手間がかかるうえに情報の取りこぼしが発生することがありました。

また、同じ不動産についても、異なる表記方法が用いられることもあり、同じ不動産に対して情報のばらつきが生じ(いわゆる表記ゆれ)、データの取り扱いが困難になるといった問題があります。

そこで国土交通省が中心となり、不動産取引における情報の取扱いやデータの利活用について検討が行われた結果、そのような課題を解決し得るとして、2022年春に不動産ID制度が導入。不動産取引に関する、さまざまな課題の解決に向けて進展が見られました。

しかし、不動産IDはあまり普及していないのが現状です。制度の概要や導入のメリット、影響について解説します。また、不動産IDの普及が進んでいない理由についても考察します。

不動産IDとは?

不動産IDは、今まで分かりにくかった地番や家屋番号に替わり、不動産を一意のコードで識別することができます。

17桁のコードによって不動産を識別するものであり、これによって物件情報が整理しやすくなることが最大のメリットです。不動産IDを参照することで、物件情報のやり取りがスムーズになるだけでなく、高精度の情報検索や閲覧が可能になります。

具体的には、「不動産登記簿の不動産番号(13桁)-特定コード(4桁)」で構成されます。

不動産ID 分類ごとのルール

国土交通省 不動産IDルールガイドライン(引用)

※1 商業用フロアごとの特定コードのルール ・階層コードは、地上・通常階「G0」、地上・中間階「GM」、地下・通常階「B0」、地下 中間階「BM」のいずれかを選択し、階数は右詰。地上2階なら、「G002」となる。
※2 非区分建物の居住用(賃貸マンション等)部屋ごとの特定コードのルール ・特定コードの部屋番号は、数字及び英文字部分のみをIDとして用いる。 ・棟番号を表す表記は省略する(不動産番号は棟ごとに存在するため)。

参考:国土交通省 不動産IDルールガイドライン

不動産ID導入のメリット

不動産IDが普及することで、不動産投資家にとってどのようなメリットがあるのでしょうか。

物件情報の情報取得が容易になる

従来の不動産投資においては、一部の人間しか情報にアクセスできない優良物件、いわゆる掘り出し物件が隠れていることがありましたが、そのような物件を発見できる可能性が高くなると言えます。

好立地・未(低)利用等の掘り出し物件を見つけるためには、何度も不動産会社に足を運び情報を取得するということが重要でした。不動産IDが普及することで情報の透明性が高まり、容易に掘り出し物件を発見することができる可能性が高まります。

ただし、他の投資家にとってもそれは同様。情報が顕在化することで取引がより活発になり、これまでは掘り出し物件と言われていた物件の、情報取得競争が高まるとも言えます。

つまり、高品質な物件を低コストで取得するためには、今まで以上にスピーディーな判断が重要となります。

不動産に関するこれまでの履歴が把握できる

不動産のリフォーム履歴や建築年月日などの情報を、住宅履歴情報との連携によって把握できるようになります。

不動産IDがあれば、過去のリフォーム履歴を確認することができるため、物件の状態や価値をより正確に把握することができます。

また、建築年月日についても、正確に確認できるため、物件の老朽化の程度や改修が必要かどうかをより的確に判断することができます。

つまり、価格査定の精度向上など不動産取引において、損をしにくい投資物件選びができるようになると言えるでしょう。

リアルタイム性向上でおとり物件が減少する

不動産IDを活用することにより、「おとり」物件による問い合わせ減少が期待できます。

不動産IDは物件情報を統一規格で管理することができるため、物件の成約情報もリアルタイムで管理されます。そのため、条件の良い物件が成約済みになった場合も、物件情報が更新され、閲覧者に誤解を与えることがなくなります。

特に、成約情報にタイムラグが発生しがちな、ポータルサイトにおいては情報のリアルタイム性向上に期待できると考えます。

不動産投資(不動産投資家)への影響

投資家自身にITリテラシーが求められるようになる

不動産投資に対してどのような影響があるのでしょうか。

投資家自身にITリテラシーが求められるようになる

不動産IDはIT分野のシステムなので、投資家自身が仕組みを理解し使いこなせるかが重要となります。

不動産投資家が不動産IDを活用する際には、データ分析能力が求められることがあります。公開されたデータから有用な情報を抽出し、将来の市場動向を予測することができるため、そのようなスキルを持った投資家は、より的確で効率的な物件選びが可能となります。

正確かつタイムリーに情報にアクセスできることは、不動産投資にとって非常に重要です。つまり、ITスキルやリテラシーが高い投資家は、より効率的な情報収集ができ、競争力を高めることができると言えます。

また、ITを駆使することで、過去のデータから将来のトレンドを予測し、効率的に物件選びをすることができます。昔ながらの不動産投資手法では、情報量もスピードも不足しており、競争力という意味では太刀打ちできないでしょう。

不動産IDの普及が遅れている現状と課題

不動産IDは画期的なシステムであるにも関わらず、普及率が低い傾向にあります。さまざまなメリットがあるにも関わらず、なぜ普及しないのでしょうか。

競合との差別化を図りたい、不動産会社の視点

不動産IDが普及しない理由の一つに、不動産情報が不動産IDに紐づけられるということに関係があります。全ての物件情報が紐づけられると、他の不動産会社では扱っていない独自の情報までも開示されることになり、競合他社との差別化が図りにくくなる可能性があるためです。

とはいえ、現在の不動産業界ではIT化・DX化が急速に進んでおり、不動産IDが持つ利便性や効率化のメリットに注目する声も増えています。また、より多くの不動産会社が不動産IDを導入することで、不動産情報の一元管理や共有が可能となり、よりスムーズかつ効率的な不動産取引が実現されることが期待されています。

また、不動産情報そのもの以外にも、不動産会社が提供する関連サービスの幅が広がり、不動産投資家に対してより魅力的なサービスを提供することができるようになる可能性があります。

例えば、AIを活用して物件の条件を自動で分析し、投資家に最適な物件を提案するサービスや、不動産会社が独自に保有する物件情報を活用した特別な割引や特典を提供するサービスなどが考えられます。

ただし、それには十分なデータの蓄積と高度な技術力が必要となるため、導入には多くの課題があるかもしれません。

不動産ID制度の主体が国(行政)ではない

不動産ID制度の根本に理由があるのではないでしょうか。

国土交通省の掲げる「不動産IDルールガイドライン」によると、この制度の主体は不動産を保有し活用しようとする者とされています。

従って、国が一元的なデータベースを作成して不動産IDを発番したり、不動産情報を収集・蓄積して各主体に提供するといったことを意図したものではありません。運用に関しては、不動産保有者(および関係者)に委ねられています。

個人や民間法人が個別の不動産情報をどれだけ提供できるのか、提供された情報がさまざまな情報と紐づき価値を見出していけるかが重要だと考えます。

まとめ

不動産IDが普及しさまざまなデータが連動すると、不動産業界は格段に効率化されるはずです。登記情報はもちろん、電気やガス、水道などのインフラ整備など、これまで多くの時間を要する情報が、不動産IDを基準に紐づけされ参照できるようになれば、個人・法人・行政にも多くのメリットがあると言えます。

今後は、不動産IDのメリットを享受できる投資家や不動産業者と、そうでない者に大きく二極化していくのではないでしょうか。

これまでの不動産業界は、IT化の遅れと労働生産性の低さが叫ばれてきました。不動産IDの普及と合わせて、業界全体の作業効率化にも期待したいです。

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