2025年08月06日(最終更新:2025年08月06日)
2025年7月1日、国税庁より「路線価」が発表されました。路線価とは、公的な土地の評価のひとつで、「土地等にかかる相続税や贈与税、固定資産税の評価額の算出基準」として国が定めている、1㎡あたりの土地評価額です。毎年1月1日を評価時点としており、「路線価」という名前の通り、路線(道路)毎に評価額が割り振られています。路線価のデータを読み解くことは不動産投資家にとって税務対策や今後の資産形成の観点で、適切に把握しておく必要がある地価です。ここでは、路線価を把握する必要性とそれを踏まえた今年の路線価の概況について見ていきましょう。
前述のように「路線価は公的な土地の評価のひとつ」ですが、他に土地を評価する価格指標として、「地価公示価格」「都道府県地価調査(基準地価格)」「固定資産税評価額」があります。これらの公的地価は「一物四価」と呼ばれ、さらに実際の取引で売買された価格のことを「一物五価」と呼ぶこともあります。ここでそれぞれの違いを確認しましょう。
・路線価とその他公的価格の比較表(実勢価格を含む)
上の表は、それぞれの地価について概要を簡単にまとめた表です。1つ目のポイントは、路線価の用途が「相続税・贈与税の評価」という点です。相続税や贈与税を計算するには、土地の「時価」を算出する必要がありますが、日本各地の土地を個別に時価査定するということは現実的ではありません。そのため、国税局が毎年全国の市街地にある道路ごとに1㎡あたりの評価額を「路線価」として公開し、この「路線価」を参考にして相続税や贈与税を算出することで公平な評価基準ができます。2つ目のポイントは、価格水準が「地価公示の約80%」という点です。これは、国税庁が調整して算出しています。地価公示や実勢価格でそのまま課税評価をすると、価格の変動によって納税額が大きく変動し評価がばらついてしまうため、安定的な価格に調整し、日本全国共通で公平に運用できるようにしているようです。このように、路線価は他の公的価格と違った性質を持っていることを踏まえて、2025年の路線価のデータを見ていきましょう。
・標準宅地の対前年変動率(全国平均)
(国税庁「2025年分の路線価等について」より作成)
2025年路線価の全国平均の対前年変動率はプラス2.7%、4年連続の上昇となりました。2021年から2022年ではコロナ禍の影響で経済活動の停滞と不動産需要の一時的な減退により上昇率が低下しましたが、その後の経済回復と全国的な不動産価格の上昇に加え、都市再開発や訪日観光客の増加、外国人投資家の参入等により価格上昇したと思われます。
・標準宅地の対前年変動率(主要6都市)
(国税庁「2025年分の路線価等について」より作成)
主要6都市の2022年からの4年間の前年変動率をまとめたものが上のグラフです。主要6都市は、全国の都道府県と比較しても上昇率が高く、東京都が最も高く1位、福岡県が3位、宮城県と大阪府が4位、愛知県が10位、広島県が13位でした。東京都は渋谷や高輪ゲートウェイ、虎ノ門、麻布台等の大規模な再開発が引き続き高水準を維持していました。このように全国平均や主要6都市の両グラフから、路線価は全国的に上昇傾向にあることが分かります。一方、地方では年々路線価が下がっている地域もあります。和歌山県や奈良県等の12の地域ではコロナ禍以降も減少を続けており、二極化の傾向が進んでいることが伺えます。これは社会問題でもある人口減少や人口流出、高齢化が要因とされています。
ここまでは、路線価の全国平均と主要6都市の対前年変動率を中心に見ていきました。前半でお伝えしたように、路線価は「相続税・贈与税の評価」に活用されます。そのため、全体の傾向を把握しておくことももちろん大事ですが、ご自身の所有している物件や将来相続や贈与の可能性がある物件等の路線価を把握しておくことがさらに重要になってきます。対象土地の路線価を把握しておくことで、相続税の試算や対策をすることが可能になり、今後の資産形成において見直しをするきっかけにもなるでしょう。路線価は国税庁のホームページにて検索して調べることができますので、一度確認してみることをおすすめします。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。