2020年08月07日(最終更新:2023年06月15日)
企業によるリモートワークの導入は、早いところでは3月末頃から徐々に増えてきました。その後緊急事態宣言が解除され、一時はオフィスに従業員が戻ってきましたが、7月に入り新型コロナウイルスによる日本国内における感染者数の増加が目立ってくるようになると、政府の要請もあって再び在宅勤務中心の勤務スタイルが戻ってきました。
このところの感染者数の増加を第二波と見るかどうかは分かりませんが、感染者数の増加がしばらく続くと、日本の企業においては「リモートワークが当たり前」ということになりそうです。
そんな中、企業は「オフィスのあり方」をどうするかを検討しているようで、5月・6月頃は「しばらく様子を見よう」という企業が大半でしたが、7月に入ると、「リモートワークを主体とする働き方」に舵を切った企業も増えてきました。
そうすると、オフィスをゼロにする極端な例はほとんどないようですが、使わなくなった一部スペースを解約する動きが出始めています。こうした傾向は、今年(2020年)の年末から、年度末(2021年3月)にかけて加速すると思われます。
オフィスへはかなりの投資マネーが入っています。こうしたお金が今後どうなるか、注目です。
オフィス仲介業者、シービーアールイー株式会社によると、東京23区のオールグレードの空室率は0.8%と依然かなり低い水準ですが、前期(四半期ベース)に比べると0.2ポイント上昇したということです。コロナショックでリモートワークが広がり、契約の保留やキャンセルがみられるようになり、空室消化ペースが鈍っているようです。
また、飲食店・アパレルといった来客型テナントの閉店に伴う解約も増えていたり、企業経営の効率化を図るためにグループ会社を集約して、使わなくなったスペースを解約したりと、まとまった新規契約もありながら、トータルでの空室は増えているようです。チェーン店系の飲食店の大量閉店がこれから数千店舗という単位で始まります。
報道によると、こうしたオフィスの解約傾向は、リモートワークを導入しやすいIT系企業が多く入居する渋谷エリアのビルで顕著に見られているようです。
それに伴い、オフィス賃料はオールグレードで1坪当たり2万3,470円(前期比0.2%下落)で2012年第2四半期以来、約8年ぶりに下がったということで、「働き方の変化」にともなう、「オフィスのあり方の変化」が感じられます。
こうした傾向は、東京都心だけでなく、大阪や名古屋のビジネスエリアのオフィスビルでも同様の傾向にあるそうです。
こうした傾向を先取りする形で、J-REIT市場に大きな変化が見られます。
7月の上旬に、物流施設100%のJ-REIT銘柄である日本プロロジスリートが、それまで長くJ-REIT時価総額トップだった日本ビルファンドを抜いて時価総額トップになりました。
22日時点での利回りは日本プロロジスが2.75%、日本ビルファンドは3.58%となっています。ECが進むことでますます重要拠点となることが間違いない物流施設の勢いを感じさせるとともに、オフィスビルの今後は大丈夫か、と感慨深いものがありました。
不動産を中心に投資している個人投資家の方と話をしていると、もともと安定感がありここ7~8年空室率低下・家賃上昇と好調が続いていたオフィスへの投資はいったん見切りをつけて、レジ物件中心のポートフォリオに切り替えようという動きが出始めているようです。
レジ物件への投資は2013年頃から順調に伸び続け、2018・19年頃から「そろそろ天井か?」と言われながらも、大きな落ち込みがない状況でした。
そのため、新型コロナウイルスの経済への影響が出た直後は、取引が止まっていたために成約件数は落ち込みました。
また、ときおり投げ売り的な物件もありました。しかし、このところは価格下落の様子が見られず、堅調に取引が行われているようで、不動産投資家は、「レジは安定感がある」と再認識して、「美味しい」物件を狙っているようです。また、ワンルームマンション等の区分物件への投資も同様です。
こうした傾向は、しばらく続くと思われます。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。