不動産売買取引でも本格導入。 IT重説の概要とメリット・デメリット
不動産コラム

不動産売買取引でも本格導入。 IT重説の概要とメリット・デメリット

国土交通省は1月25日、「ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会」(座長:中川雅之氏(日本大学経済学部教授))の7回目となる会合にて、個人を含む売買取引におけるIT重説について、2021年4月にも本格運用を開始すると明らかにしました。

売買取引でもいよいよ本格導入が始まるIT重説。今回はIT重説とは、メリット・デメリットを交えながら解説します。

そもそもIT重説とは何か?

まずは、重説ですが、これはご存じの通り「重要事項説明」の略です。宅地建物取引業者が、売買や貸借の契約締結に先立って、買主・借主に対して契約上の重要な事項を宅地建物取引業法第35条にもとづき説明することを言います。

宅地建物取引業法第35条では、売買契約・賃貸借契約を締結するよりも前に、間に入る(もしくは自らが売主・買主になる)宅地建物取引業者が、買主・借主に契約上の重要な事項を説明するように法律で義務付けています。重説およびその書面に記名(署名)および押印を行うのは宅地建物取引士でなければならない、説明は口頭で必ずしなければならないなどのルールも多くあります。

なぜ、このような規定があるのでしょうか。それは、不動産の買主・借主は、契約しようとする物件に関して十分な情報を持っていない場合がほとんどで、思わぬ損害を受けてしまう可能性があるからです。また、買主・借主が一般人である場合には不動産に関する法律知識が不十分であることも理由のひとつです。

今まで重説は、買主や借主が物件とは遠く離れた場所に住んでいる場合でも【対面式】で行わなければなりませんでした。例えば、沖縄県に住んでいる人が、東京の物件を買う場合でも、わざわざどちらかが移動しなければなりませんでした。時間も費用もかかってしまいます。そこで、対面でなくても重説を行えるように「IT重説」の導入の検討が始まりました。

IT重説のメリットとデメリット

IT重説のメリットは、何と言っても「時間とお金の節約になる」という点です。

以下は、国土交通省が平成27年8月から平成29年1月までにIT重説を受けた説明の相手方へのアンケート結果をまとめたものです。

IT重説が便利であると感じた点

IT重説が便利であると感じた点

(国土交通省「IT重説実施直後のアンケート結果」)

84.9%の人が「店舗を訪問する必要がない点」をIT重説の利便性としてあげています。

ここにはありませんが、日程調整が柔軟にできる点、緊張感のないゆったりと安心した環境下でやり取りが可能な点もIT重説のメリットと言えます。

一方で、デメリットもあります。

IT重説が不便であると感じた点

IT重説が不便であると感じた点

(国土交通省「IT重説実施直後のアンケート結果」)

先ほどと同様の国土交通省のアンケートによると、不便であると感じた点について半数の人が「特にない」と言っています。

ただ、4分の1で「機器やシステムを使うための環境や知識がないと、準備等の負担が大きい点」と回答しています。IT重説を実施するためには、まず基本の環境整備が必要です。スカイプや無料ビデオチャットアプリなどもありますが、音声や画像品質、録音機能、セキュリティ上の問題に不安がないとはいえません。説明を受けている途中、重要なタイミングで、音声が途切れたりすることも懸念されるため、十分なインターネット環境も必要になってきます。

また、先ほどメリットであげられた「リラックスできる環境下で重説をうけることができる点」ですが、これは逆にデメリットとなる場合もあります。対面ではなく、買主や借主が自宅などでリラックスして重説を受けられるということで、大事な部分を聞き流してしまうこともあるかもしれません。

また、重説が対面でなくなったことにより、内覧から契約まですべてオンラインで済ませることもできるようになります。実際に入居したあとで「こんなはずじゃなかった。」「説明と違った」などとギャップを感じる危険性がある点は、買主・借主だけではなく、売主、そして貸主としても意識しておかなければなりません。

IT重説の流れと課題

IT重説の流れは以下の通りです。

  • 1)接続テスト
  • 2)書類送付
    重要事項説明書や賃貸借契約書など、契約に係る書類を送付します。
    契約者が事前に書類に目を通せるよう、IT重要事項説明の前日までに届くようにします。
    宅建業者:重要事項説明書の作成→重要事項説明書の内容確認、記名押印→重要事項説明書を2部相手方(顧客)に送付
    顧客:重要事項説明書を受領(IT重説実施前までに)
  • 3)IT重説実施
  • 4)契約者の書類返送
    顧客:重要事項説明書の内容確認、記名押印等→重要事項説明書を1部宅建業者に返送
  • 5)引き渡し

 これを見ると、IT重説で重説自体は手軽になりましたが、書類のやりとりがなんとも煩雑に感じます。

そこで、IT重説の次のステップとしては、「電子書面交付」となります。「電子書面交付」とは、書面(紙)交付が宅建業法で義務付けられている契約書と重要事項説明書を、PDF化するなどし、メールなどの電子的な方法を使って、買主や借主に送り交付するものです。

借主はタブレットやパソコン等で文書を確認し、署名・押印をするだけで契約ができます。現在は、社会実験を行っている段階です。

投資用不動産売買で多く実施されるIT重説。

第7回ITを活用した重要事項説明に係る社会実験に関する検証検討会(令和3年1月25日実施)の報告書によると、アンケート回答者(2,289件)のうち、投資用が64%、物件 の売買価格は、最も多いところで1,000万円から4,000万円未満で、全体の56%だったようです。社会実験では、実需よりも投資用で多くIT重説が行われたようです。

売買取引において4月から本格運用が始まるIT重説、不動産投資を行う方々にとっては、是非チェックしておきたいトピックスだと言えそうです。

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