2019年01月10日(最終更新:2023年06月02日)
年末の足音が聞こえ始め、年末に向けて慌ただしい季節になりました。
このころから、3月にかけては賃貸住宅の入れ替わりの時期になります。「いい物件は早く決まってしまいますので、内覧前に申し込みしてください」と業者の方が言うような、「いい物件の奪い合い」もこの時期に見られる傾向です。
賃貸斡旋会社と話していると、ここ数年間都心の賃料は上昇基調が続いていると、多くの方々が言います。しかし、あまり細かなデータはありません。業者の方々の肌感覚が最も適した解答だと思います。
また、高級賃貸マンションを中心に扱う不動産会社の方は、「2017年以降、高級分譲マンションの賃料が高止まりしている。」のようです。とくにファミリータイプで家賃30~50万円くらいの分譲マンションの引き合いが多く、人気のタワーマンションなどの物件が出ると、客足が早くまた、賃料の指値もほとんどないようです。
こちらは、細かいデータありますので、図で解説しましょう。
図1は東京カンテイ社が公表している分譲マンション賃料の推移です。これを見ると首都圏での分譲マンション賃料が2017年以降上昇しているのがわかります。
背景には、中古マンション(あるいは新築マンション)を購入しようとしている方が、現在の高値を敬遠して、購入するのを控えているからのようです。
例えば、かつては坪単価300万円前後だった都心のマンション価格が現在は400万円を超える水準になっており、標準的なファミリータイプ70m2(約21坪)で換算すると、6,000万円台だったのが8,000万円を軽く超える状況です。そのため、「しばらく待とう」と考えているようです。
またそれに加えて、もともと分譲マンションを所有していた方々が高値の現在、買値よりも高い値段で物件を売却し、そして現在は別の分譲マンションを賃貸している例も多いようです。中古マンション・新築マンションとも、価格上昇は止まる気配ですが、下落の気配もあまり見られないので、まだまだ首都圏分譲マンション賃貸は好調が続くと思います。
こうした傾向は分譲マンション賃貸物件だけでなく、首都圏主要エリアに在する賃貸物件全般に当てはまるものと思われます。
このような賃料水準が30~50万円台のファミリータイプの賃料は、不動産市況により多少左右されます。いうまでもありませんが、賃料が100万円を超えるような超高額賃料物件では、そのブレ幅も大きくなります。
逆に、ワンルームマンションはそれほど不動産市況に左右されません。そのため、不動産市況が好転して賃料上昇基調のさなかでも上がり方は少しずつです。賃料8万円のワンルームがいきなり10万円にはなりません。
しかし、不動産市況が大きく悪化しても、ほとんど賃料は下がりません。リーマンショック後、不動産市況は大きく悪化し、マンション価格は、中古物件はもちろん新築マンションの坪単価もかなり値崩れしました。しかし、40m2以下のワンルームマンションやコンパクトタイプの賃料はほとんど下がりませんでした。
このように、首都圏のワンルームマンションは空室が出にくいという安定性に加えて、賃料の下落確率が低いという安定性もあります。近年高級な分譲マンションのファミリータイプ物件を投資用に購入する方も多いようですが、マンション価格上昇の現在、利回りはそれほど期待できません。
また、ここに来てマンション価格は上昇から横ばい基調に転じています。そのため、大きな価格上昇は望めません。
こうして考えると、現在は何億円の高級分譲マンションを投資用に買うよりも、1棟収益レジデンス(ワンルームマンション数戸のタイプ)を購入する方が、空室率、賃料とも安定性が高いと思います。
最後に、賃料の性質について述べておきます。不動産投資において、賃料の特性を理解しておくことは重要です。
賃料には「遅効性」という特徴があります。市況の波、価格上昇の波にやや遅れて、変化が起こるというものです。図1で見たように中古マンション価格は2012年の後半~2013年初めごろから上昇基調にありました。それからじわじわと賃料上昇のキザシは見えていましたが、2017年頃からはっきりと賃料上昇基調が見えました。
2019年の賃料は、都市部を中心に概ね上昇基調にあると考えています。もし仮に、マンション価格が下がったとしても、「賃料の粘着性」という特性から、賃料下落はその2年後くらいになると思います。こうして考えると2019年~2020年の賃料状況は上昇、仮に市況が悪化しても横ばいだと思います。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。