
2026年06月05日(最終更新:2026年06月05日)
一般的な投資家が購入する1棟レジデンスは10~20室程度の物件が多いようですが、このサイズの一棟レジデンスへの投資においては、物件取得後の運営パートナー、すなわち賃貸管理会社の選定が長期的な収益と資産価値を大きく左右します。
一棟レジデンス物件ではオーナーが共用部の維持管理、修繕計画、入居者対応、リーシング戦略のすべてに責任を負うため、委託先の力量がそのまま稼働率と手取りキャッシュフローに反映されます。ここでは実務的な視点から、選定にあたり検討すべき論点を整理します。
目次
賃貸物件の管理は、一般にPM(プロパティマネジメント)とBM(ビルマネジメント)に大別されます。PMは、物件(=プロパティ)運営管理(=マネジメント)ですから、入居者募集、契約締結、家賃集金、滞納督促、クレーム対応、退去精算といった運営業務を担います。BM(ビルディング=建物、マネジメント=運営管理)は建物・設備の清掃や点検、修繕といったハード面の管理を担当します。10~20室規模の一棟物件では、両者を一社に統合委託するか、PMとBMを分離発注するかが最初の論点となります。統合委託は窓口が一元化される利便性がある一方、分離発注はコスト透明性と専門性の確保で優位に立つ場合もあります。
2021年6月施行の「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」により、管理戸数200戸以上の賃貸住宅管理業者には国土交通大臣への登録が義務付けられています。さらに営業所ごとに業務管理者の配置が必要で、賃貸不動産経営管理士または宅地建物取引士+指定講習修了者の有資格者でなければなりません。無登録営業には1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されます。委託候補の登録番号と業務管理者の配置状況は、最低限のスクリーニング基準として必ず確認すべき項目でしょう。
一棟レジデンスを投資として購入する場合(新築・中古)、売主や施工会社(新築の場合)のグループ会社が管理を提案してくることが多くあります。独立系管理会社との比較でメリットとデメリットの双方を理解した上で判断することが重要です。
メリットとしては、第一に、建物の設計図書・施工情報をグループ内で保有しているため、設備不具合や瑕疵が生じた際の原因究明と対応が迅速である点が挙げられます。第二に、新築物件では、新築引渡から継続管理することで責任関係が明確になり、アフターサービス期間中の瑕疵担保責任との連動がスムーズです。また、経営基盤の安定性と、同種物件の管理実績の蓄積による知見が期待できます。
一方、デメリットも看過できません。第一に、管理委託料が独立系と比較して割高に設定されやすい傾向があります。販売スキームに組み込まれている場合、価格競争にさらされにくいことが背景にあります。第二に、修繕業者がグループ内に固定化されやすく、相見積もりによるコスト最適化が機能しにくい構造的問題があります。第三に、施工不良や設計上の瑕疵が発見された場合、売主・施工会社・管理会社が同一系列であるため、オーナーの利益を代弁する立場で売主に対峙する動機が弱くなる潜在的な利益相反が存在します。第四に、サブリース契約とセットで提案されることが多く、将来の家賃保証額改定リスクがキャッシュフローに影響する可能性があります。判断にあたっては、独立系の見積もりを並行して取得し、業務範囲・料率・修繕業者選定の透明性を比較してもいいでしょう。
一般管理委託の相場は、家賃収入の3〜8%が中心で、5%前後が標準的な水準とされています(契約内容等により大きく異なりますので、目安と考えてください)。サブリース(一括借り上げ)では10〜20%と高くなる一方、空室リスクをサブリース会社が負う構造です。10~20室規模では集金代行業務を5%前後で受託する会社が多いものの、原状回復、リフォーム提案、入居者トラブル対応がどこまで手数料に含まれるかは会社により大きく異なります。手数料の絶対水準のみで判断せず、業務範囲との整合性を確認することが肝要です。表面上は安価でも別途請求項目が多ければ、実質コストは想定を上回ります。
10~20室規模では1室の空室がキャッシュフローに与えるインパクトが大きく、リーシング力こそが選定の核心です。エリアごとの仲介ネットワーク、AD(広告料)戦略の柔軟性、ポータルサイト掲載のクオリティ、内見時の対応力を具体的に確認するといいでしょう。 担当者一人当たりの管理戸数が過剰な会社は対応の質が低下しやすいため、担当体制も重要な論点です。可能であれば、同社が管理する近隣物件の入居率や平均空室期間の開示を求め、実績ベースで評価できれば、なおいいでしょう。
加えて、毎月の収支報告の様式、修繕提案のサイクル、緊急時の対応体制、サブリース契約の場合の家賃減額条項についても確認が必要です。特にサブリースは管理業法によって重要事項説明と書面交付が義務付けられており、家賃保証額の改定リスクや更新条件は契約段階で十分に検証すべき事項です。さらに、担当者の相性、レスポンス速度、修繕業者選定における透明性は、5年・10年単位で関係を続ける上での重要なポイントとなります。


不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。