2020年02月17日(最終更新:2023年06月12日)
不動産投資家の「期待利回り」は、キャップレートと呼ばれ、いくつかのシンクタンク等がデータを収集・分析して、公表しています。
ワンルームタイプにおける東京23区キャップレートは、ミニバブル期は低下傾向が続きリーマンショック直前の2007年10月には5.2%となっていました。しかし、リーマンショックの影響が出始めた2008年4月には6.3%と急反発しました。
リーマンショック直後に上がった(価格は下落した)ものの、すぐに低下の一途をたどり、いまでも投資意欲は高い状態となっています(この間の賃料はあまり変化していないため、キャップレートの低下は価格の上昇を意味していると言っていいと思います)。
また、リーマンショック前までは、東京、大阪、名古屋でそれほど大きな差はなかったものの、リーマンショックを境に東京とそれ以外の大都市の格差が広まりました。
そしてその後2012年中ごろから、低下傾向が続き2015年10月には4.7%とミニバブルの最低値を下回りました。
現在、都心に位置する築5~10年の投資マンションとして標準的な中古ワンルームマンションのキャップレートは4%台前半で、郊外でも5%台前半で推移しています。
立地による差については、極端な例でいえば、銀座の一等地にある商業ビルのキャップレートは2%前後というケースもあります。また、都心の超一等地のワンルームマンションにおいては3%台の新築物件も珍しくありません。
このように、キャップレートは物件ごとにかなり異なるので、標準的なキャップレートの数字だけにとらわれず、あくまでも基準として考えればいいと思います。
このキャップレートは不動産の市況により変化しますが、同じ市況下においても、家賃下落リスクや空室リスクといったリスクが大きくなるほど、賃貸物件を保有している投資家が期待する利回りは高くなり、逆にこれらのリスクが小さくなるほど、キャップレートは低くなります。
ですから、当然ですが良い立地のほうがキャップレートは低く、悪い立地のほうがキャップレートは高くなります。また、同じ場所にある物件でも、物件の状況でも大きく異なります。
同じ赤坂のワンルームマンションでも、築古でボロボロのワンルームマンションと、築1年程度の新しいワンルームマンションではキャップレートが違うということです。築年数が古くなれば、その分、さまざまなリスクを抱えます。前述したように家賃下落、空室の発生、修繕費出費などがそれです。結果、リスク要因が多いと考えられる物件ほど、キャップレートは高くなります。
さて、この先、投資対象レジデンスのキャップレートはどうなるのでしょうか?
近年、レジデンス投資のキャップレートは下がり続けてきました。2018年以降、キャップレートはそろそろ底になり反転する、つまり「不動産価格が下がるかもしれない」と言われてきましたが、2019年もそして2020年に入っても、反転する様相はありません。横ばいから、もう一段下がっているという状況です。
2020年夏の東京オリンピック以降、不動産価格が下がるかもしれないと思っている方も多いようですが、現在の気配ではそんな感じは見えません。投資家意欲も一時の勢いはないとは言えまだまだ投資意欲が旺盛です。「他にキラリと光る投資先がない」という意見も聞かれます。だとすれば、キャップレートはこのまま低い水準が続くものと思われます。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。