2022年10月11日(最終更新:2023年06月15日)
目次
2022年の都道府県地価調査(基準地価)が9月20日に公表されました。2022年の基準地価では、経済活動が正常化している中で、住宅や店舗などの需要は順調に回復傾向にあり、それがどれくらい地価に反映されているのかに注目が集まっていました。
今年の基準地価では、住宅地の全国平均が1991年以来31年ぶりにプラス(+0.1%)となったことが、大きな話題となりました。1991年と言えば、バブル期において地価が最も高かった頃(公表ベース)で、この年を境に地価は下落し始めます。
全用途全国平均は、+0.3%で3年ぶりにプラス(前年は-0.4%)となりました。住宅地全国平均は+0.1%(前年は-0.5%)、商業地全国平均は、3年ぶりのプラスとなり+0.5%(前年は-0.5%)でした。
全国的に地価の回復傾向が進んでおり、住宅地は新型コロナウイルスの影響が起こる前の状況に戻ったという状況です。一方、商業地は回復上昇基調にあるものの、上昇幅は新型コロナウイルスの影響前(2019年)に比べるとまだ小さいという状況です。
3大都市圏とは、「東京圏、大阪圏、名古屋圏」を言います。
住宅地においては、3大都市(東京圏・大阪圏・名古屋圏)いずれも前年比でプラスとなり、商業地においても昨年は東京圏、大阪圏でマイナスでしたが、いずれもプラスとなりました。
大都市部においては、特に生活利便性の高い地域では、住宅需要はかなり堅調で、低金利環境が継続し、住宅取得支援策(例えば、住宅ローン減税)などが需要の下支えとなり、住宅地地価上昇が顕著になっています。
また、大都市部の商業地においては、昨年は大阪圏ではマイナスでしたが、今年は東京圏、大阪圏、名古屋圏ともプラスとなっています。個人需要の持ち直しから店舗需要は回復傾向であり、再開発事業が依然活発で、こうした地域では期待感から地価上昇傾向が続いています。
3大都市圏では、全用途平均、住宅地、商業地がいずれも3年ぶりに全てプラスとなりました。
東京都都内の基準地価は、住宅地+1.5%(前年は+0.2%)、商業地は+2.0%(前年は-0.3%)となりました。
これを23区内の商業地に限れば、23区平均で2.2%上昇し、都心5区は+1.0%でしたが、たとえば杉並区+3.8%、北区+3.7%、中野区+3.5%、荒川区+3.5%など都心部に比べ住宅地イメージの強い地域の商業地で上昇幅が大きくなりました。
上昇が目立つエリアでは、分譲住宅(マンション・戸建)の開発だけでなく、賃貸住宅の建築も増え、こうしたことが地価上昇要因となっていると思われます。
ここからは住宅地について見てみましょう。
圏域別では、東京圏では+1.2%(前年は+0.1%)、大阪圏0.4%(前年は-0.3%)、名古屋圏+1.6%(前年は+0.3%)となっています。
地方では、地方圏全体-0.2%(前年は-0.7%)で、過去15年を遡ってもマイナス幅は最小でした。また地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると、+6.6%(前年は+4.2%)となりました。
直近5年の4大都府県(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)にフォーカスしてみると、図1のようになります。主要都市の住宅地においては2020年の落ち込みは一時的なもので、変化率は、概ね(影響前の)2019年を超える水準になっています。
続いて、商業地を見てみます。
国内観光需要、ビジネス需要が回復しつつある状況で、さらにインバウンド需要も回復のキザシが見えてきていることで、人気ある繁華街などでは上昇に転じた地点も見受けられるようになりました。こうした状況により、昨年調査から上昇幅が拡大した地域が多く見られました。
東京圏では+2.0%(前年は+0.1%)、大阪圏は+1.5%(前年は-0.6%)、名古屋圏は+2.3%(前年は+1.0%)となりました。3大都市圏が全てプラスとなるのは3年ぶりでした。
商業地においても、地方圏の上昇が顕著となっています。 地方圏全体では-0.1%でプラス圏には届きませんでしたが、昨年は-0.7%でしたので、回復基調にあります。地方4市(札幌・仙台・広島・福岡)に限ると+6.9%となり、3大都市圏よりも大きな上昇率となっています。
直近5年の4大都市(東京都・大阪府・愛知県・福岡県)の商業地地価の変動率をみると、図2のようになります。昨年は4大都市でやや違いが見られましたが、今年は概ね似たような数字となっています。
大都市部、地方主要都市部の商業地地価の上昇の背景には、「海外投資家による物件取得意欲が旺盛な事」、があげられます。
海外投資家から見れば、我が国の不動産投資においては、対ドルでの円安が有利に働いていることに加えて、調達金利と利回りの差が他の主要都市よりも大きく取れている、という状況です。
現在の日本の金融緩和政策が続く間は、この傾向が続くものと思われます。
2023年の都道府県地価ですが、少なくとも前半(2022年年末まで)は、現在プラス圏の地域は上昇幅拡大、現在マイナスの地域では回復基調で推移するでしょう。
後半(2023年の上期)も概ね好調と思いますが、金利の行方次第では上昇基調がつづかないかもしれません。金利のゆくえに、注視していただきたいと思います。
不動産エコノミスト 吉崎 誠二(よしざき せいじ)
社団法人 住宅・不動産総合研究所 理事長
早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。立教大学大学院 博士前期課程修了。(株)船井総合研究所上席コンサルタント、Real Estate ビジネスチーム責任者、基礎研究チーム責任者、(株)ディー・サイン不動産研究所 所長を経て現職。不動産・住宅分野におけるデータ分析、市場予測、企業向けコンサルテーションなどを行うかたわら、全国新聞社、地方新聞社をはじめ主要メディアでの招聘講演は年間30本を超える。
著書: 「データで読み解く賃貸住宅経営の極意」(芙蓉書房出版)、「大激変 2020年の住宅・不動産市場」(朝日新聞出版)、「消費マンションを買う人、資産マンションを選べる人」(青春新書)等10冊。多数の媒体に連載を持つ。