建設業の人件費が大きく上昇中!? 建設工事費デフレーターを分析すれば景気動向はつかめるか
不動産コラム

建設業の人件費が大きく上昇中!? 建設工事費デフレーターを分析すれば景気動向はつかめるか

以前「建設工事費はどこまで上昇するのか?」でも、お伝えしましたが、東日本大震災の復興事業や2020年東京オリンピックに向けた公共工事の増加によって、現在建設工事に携わる職人の不足が続いているようです。

労働者不足が加速する建設業界

建設業労働者過不足判断D.I.

建設業労働者過不足判断D.I.

※労働者過不足判断D.I.:労働者数について、調査日現在の状況で「不足(やや不足、おおいに不足)」と回答した事業所の割合から「過剰(やや過剰、おおいに過剰)」と回答した事業所の割合を差し引いた値をいう。

上図は、建設業における労働者の不足割合を示すグラフです。グラフから分かるように、近年急激な労働者不足が生じているのは明らかなようです。

人材不足が続くことは、「賃金の上昇を促し、建設工事費もつられて上昇する」と考えられます。今回は、建設工事費を見る上で欠かせない指標である「建設工事費デフレーター」について見ていきたいと思います。

「建設工事費デフレーター」とは?

建設工事費デフレーターは、建設工事に係る「名目工事費額」を基準年度の「実質額」に変換する指標です。つまり、建設工事にかかる費用の相場を示す指標になっています。
これは、総務省がとりまとめる「基準経済指数」に位置づけられており、経済の変動を知る上でも非常に重要な指標になります。

デフレーターを作成する際には、まず建設工事に費やされている費用の内訳が算出されます。費用の投入先を大まかにわけると「労務(賃金、社会保険料)」、「資材」、「サービス(運送、金融、広告)」、「小売り商品」の4分類になります。

では、これら4分類に対して費用はどのように振り分けられているのでしょうか。

建設工事費の内訳

建設工事費4分類の内訳

上図を見ると建設工事費のうち半分近くが労務にかかる費用となっています。そのため人件費の変動が建設工事費に大きな影響を与えるであろうことが予測できます。

建設工事費デフレーターと4つの指標

 先程述べた費用内訳の4分類に対応するのが「賃金指数(建設業)」、「企業物価指数」、「企業向けサービス価格指数」、「消費者物価指数 総合(除く帰属家賃)」の4つの指標です。

建設工事費デフレーター(住宅建築)と各指数の推移

建設工事費デフレーター(住宅建築)と各指数の推移

上図は建設工事費デフレーターと4つの指数の推移を比較したものです。大きな変動があるところを見てみましょう。

2008年には企業向け物価指数とデフレーターがともに大きく上昇しているのがわかります。これは、リーマンショックの影響を受けて企業向けに販売される資材等の価格が高騰したことが原因であると考えられます。建設工事に当たって、費用のうち3割強を資材が占めていることからも、物価の変動が建設工事費に大きな影響を与えているのだと考えられます。

さらに、2018年の変動を見てみると賃金指数と建設工事費デフレーターがともに大きく上下しています。冒頭で述べたように建設工事需要の拡大に反して人材が不足していることが原因であると考えられます。工事費にしめる人件費の割合が5割近いこともあり、建設工事費の相場は人件費によって大きく変動し得ると考えられます。

建設工事費デフレーターと賃金指数の相関係数は0.87となっており、非常に強い相関があるということがわかります。

建設業の人件費は大きく上昇中

賃金指数の推移

上図は、建設業の賃金指数と全産業計の賃金指数の推移を比較したグラフです。

賃金指数を求める毎月勤労統計は全数調査ではなくサンプル調査となっているため、抽出された事業所によって変動する可能性もあります。建設業の賃金指数が2018年に大きく上下している所がその調査方法による影響かと考えられます。

しかし、俯瞰的に見ると産業計では賃金指数が横ばいになっているのに対して、建設業の賃金指数は右肩上がりになっています。やはり各産業の中でも建設業が特に人手不足の影響が大きいのではないでしょうか。

また、人手不足自体は深刻な問題ですが、賃金上昇につながるのは良い傾向だと言えるかもしれません。

オリンピックに向けた公共事業の影響もあり、今後賃金上昇とそれに伴う建設工事費の上昇がしばらく続くのではないかと考えられます。経済の基準指数を担う建設工事費デフレーターの変動には、オリンピック後も要注目であると思います。

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